21 お金の価値①
「あの…すいません…」
「ああ、ちょっと待っていて」
囲い越しに子供から声をかけられて、隆二は返事をした。薄い紺色のビニールなので、光のある外側は透けて見える。
隆二は、そっと車を降りて隣へと顔を出した。
屋根の下の荷台の上に子供が起き上がっていた。
「気分はどうだ?」
「すごく楽です。お水と食事…それに屋根までつけてくださってありがとうございます。」
子供はぺったりと荷台の床へと頭をつけた。
まだ動ける感じではなさそうだ。
よく見るまでもなく、骨と皮でガリガリの手足は見ているだけでも不安になる。
「これは、俺が好きでやったことだから気にしないで。頭を上げてよ。」
「でも…貴重な食糧までいただいてもお返しできるものがありません。」
「お返しなんていらない。そんなもの求めていないから安心して。それより、もう少し食べたほうがいい。あれっぽっち食べたくらいじゃ足りないだろ。」
隆二は、インベントリに入れておいた粥を取り出した。お湯で薄めていたが、ふやけて増えて見える。このままで食べられるだろうか?
「食べられるなら、これを全部食べなさい。」
「えっあの…いいのですか?」
「ああ、これは君の分だ。そうだ、名前を聞いていなかったな。俺は隆二だ。」
「リュウジさん。僕はロティです。」
「そうか、ロティさんこれを食べよう。」
「でも、リュウジさんの分は?」
なるほど、俺の分がなくなると心配してくれているのか。
隆二は、一度隣へ戻り誠実とロールパンを取り出した。小さなナイフも持つ。タオルを持つ余裕がないので首へとかけた。
「俺はこれがある。安心して食べてくれていい。粥を食べたら、これも食べなさい。」
隆二は、誠実をロティの目の前に置いた。
隆二がパンを食べ始めると、ロティは粥を食べ始めた。うぐうぐと涙ぐんで食べているので、なんとも酷い顔になっている。
「ロティさん、食べるか泣くかにしようか。」
隆二は首から下げていたタオルでロティの涙を拭いた。
その瞬間、ロティは動きを止めた。
嫌だったか?嫌だよな?他人の首にかけていたタオルなんてバッチイもの、気持ち悪いに決まっている。
「ごめん。気持ち悪かったか?」
「いえ、そんな…まさか…違います。」
ロティは視線を彷徨わせてから、隆二のタオルに目をやった。
「大丈夫なら、これで涙を拭いて…」
ロティは頷くと、顔をタオルへ押し付けた。
それはそれでちょっといたたまれない。
多分…いやかなりの確率で汗くさいはずだ。
「こんなフワフワな高級な布があるなんて…気持ちよくてびっくりです。」
「そうか、それならそれはやるから存分に涙を拭いてくれ。」
「ふぇ!?」
「それはロティさんにやる。だから泣き止むんだ。」
「うん、ありがとうございます。」
そういうと、ロティは大泣きし始めた。だめだ…これはしばらく泣かせておいたほうがよさそうだ。
隆二はロティの背中を撫でて落ち着くのを待った。