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「お父さん、なぜリュウジさんにギルド立ち上げを提案したの?」
リリアの問いかけはもっともだった。
ヒイロは苦笑いを浮かべた。
「リュウジさんは金の卵だからな。」
「そうですね。だからこそ商業ギルドで抱え込んだほうが…」
「それは、いつかリュウジさんの反発や疑心暗鬼を生むだろうな。」
「どういうことですか?」
「あの方は善良でとても優秀だ。」
「そうですね。」
「利用しようとすれば、いずれは離れていくだろう。」
「優しい人ですし、今は町の状況に理解してくれていると…」
「それはそうだ。だが…あの人がどう動いているかはわからないが、時々町から出ていくだろう?」
「はい…」
「そして、角兎や猪を連れ帰っている。」
「それは知っています。」
「リュウジさんが門をくぐる時に、角兎を連れていたことはあったようだが…数量が違う。それに猪を連れているのは見ていないという。」
「どういうこと?」
「アイテムバッグには生き物は入らないのは知っているだろう?」
「それは…」
「それに、角兎も猪も住処は森だ。ここから一番近い森はどこだ?」
「!?」
「お前は、日帰りで連れ帰ることができるか?」
「いえ…とても無理です。行くだけでも2日か3日は…」
「リュウジさんは、とても早く移動する手段を持っている。そして、あの狂暴な角兎や猪を拘束もしくは押さえつける手段もだ。」
リリアの顔色が真っ白になっている。
「ああいう人を敵に回したら終わりだ。静かに姿を消して二度と現れない。この短期間にあの人に救われた人はどれだけいるのかわかるだろう?」
「はい…」
「あの人の信頼を得るために、利益になるように提案をしたほうがいい。そして、できることなら縁を結びたい。」
「それは…」
「リリアは、リュウジさんが好きなのだろう?」
「それは…はい…」
「それなら、親としても応援する。早めに強いつながりを持ちたい。それに…」
「それに?」
「あの人は…商業ギルドや農業ギルド…他もそうだが、どこかのギルドに囲い込まれて搾取されるのはどうにも抵抗がある。」
「それって…」
「友人としても大事なんだよ。」
「クスクス。さきほどまでギルドマスターとして言っていたのに…結局はそこですか?」
「そういうものだろ?」
「よかったです。下心だけではなくて安心しました。」
「下心ならあるぞ。」
「あるの?」
「ギルドマスターとなれば、たとえ国が動いても拒否する力がある。」
「…それで、私はどうしたらいいの?」
「リュウジさんを助けてやれ。あの人は優秀だが、この国の手続きに詳しいわけではない。そういった事務方をフォローしろ。」
「わかりました。」
「あとはあれだ。抱き込めとは言ったが、深い関係を結んでいいわけではないぞ。そういうことは挨拶を済ませてからだ。お前は大事な娘でどうなってもいいわけではない。そこは忘れるな。」
リリアが頷いて部屋を出て行った。
本当は、けしかけたくはない。だが、リュウジさんを見ていると、従業員には妙齢の女性が多く彼女たちは積極的だ。リュウジさんはそれらを軽く躱しているのも見ている。
こちらである程度選んだ女性たちとはいえ…やはり娘にも頑張ってもらいたい。
この国は、帝王制だ。
帝王や貴族たちには複数人の妻を持つことが認められている。
愛人ではなく第〇夫人という肩書も与えられる。
庶民の場合は、妻は1人だけだが愛人を持つものは少なくなかった。ただしそれは十分な食べ物を用意できることが条件だ。養えないなら愛人は認められない。
そして飢饉続きのこの国では、帝王でさえ妻は2人だけだ。
だが…リュウジさんの場合は、何十人も囲えるということになる。
今は、そういう相手がいないとしてもいつ変わるかはわからない。
そういう人に娘をと考えてしまうのは、食べられない期間が長すぎたからかもしれない。
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