200
200話目です。
ミニトマトがポツポツと赤くなり始めた。
10数粒の収穫ができたので、ひとり1つずつ食べる。思ったより酸っぱいそれに隆二は肩を竦めたが、他の人たちは目を見開いていた。
「これは果物?」
「野菜ですよ。ミニトマトです。」
「ここにいると信じられない物ばかりだな。甘くておいしい。」
「昨日のヤングコーンもおいしかった。あんなに小さくても食べられるのは知らなかった。」
「食べられますよ。もったいないですけどね。」
「たしかに、あれで収穫しなければ大きくなっただろうし。」
「でも、抜かないと大きく育たないなら、大きく育てるために仕方がないさ。」
「そうだなぁ」
「だが、ここのトウモロコシは俺らが見慣れたものとは違うな。あっちの畝のは見慣れているが、こっちは茎の色も違う。実も小さいとは言っても黄色しかないのは、品種違いだろう?」
「よくわかりましたね。こちらのトウモロコシは特別甘い品種です。種が少ないので、今年はできるだけ多くを種にしたいと思っています。」
「そうだろうな。わかる。それでいいと思う。」
「昨日受粉作業をしてもらった畝は、ここの倉庫にあったものです。」
「ってことはヒロの家のもろこしか。」
研修生たちは苦笑いを浮かべた。
隆二は何かあるのかと気になってしまう。
「何か問題が?」
「ここの家のもろこしは硬くてうまくない。」
「そうなんですか?」
「ああ、煮込んでも柔らかくならない品種でね。粉に挽くしかないが、それも手間がかかるからなぁ。」
「他の品種の種はお持ちですか?」
「いや、うちは種もなくなってしまった。収穫ができないからさ…」
「では、もし種を見つけたら育てて種を増やしてください。いろいろと作って比べたいですね。」
4番の畑に畝を作り、評判の悪いヒロの家のトウモロコシの種は硬いというので、1週間近く水につけてから植え小さな芽が見えていた。
硬くても粉に挽けば、トルティーヤくらいは作れるはずだ。
ポップコーンになるような爆裂種であれば、楽しみが増える。隆二はキャラメルポップコーンが好きだが、作り方はわからない。普通の塩味にしよう。それかスープの浮き身にしてもいいだろう。
「さて、味見をしたことですし、ミニトマトの脇目取りをしましょう。このように枝の付け根に生えてくるのが脇芽です。このまま伸ばしてしまうと枝ばかり育ってしまい、実が育ちませんし日当たりも悪くなります。脇芽を取ったらこのように水に差してください。」
「これなんか見たことあるよな?」
「先週植えてもらった苗と似ているのでは?」
「ああ、そうだ。それです。」
「これに根を出させたものですから、まあそうでしょうね。脇芽をとりつつ伸びた分をまた誘引してくださいね。」
ミニトマトは長く枝を伸ばすので鉢植えであれば巻きつけるような支柱が売られている。数の多い畑でそれは面倒なので、面の支柱を立てていた。ところどころ誘引させて紐で8の字に結ぶ。
それが終わると、先週ミニトマトの脇芽を植えた場所に支柱を立てていく。一緒に作業をすることで、彼らには仕事を覚えてもらっていた。
一通りの作業をおえると、隆二は自室へ籠った。
作りたい物はたくさんあるが、作り方がわからない。漠然としていることも多い。
アイテムリストから交換したキャベツクラブや雑誌類で作り出せる手がかりを探すのは、研究に飽きた時や困ったときの過ごし方だった。
インベントリに入れてわかるのは、その物の名前と持つ特性だけだ。
石鹸を作るときには、朧気な知識を頼りにキャベツクラブの手作り石鹸の記事を見つけて固形石鹸の形にできた。その後の液体石鹸は繰り返しの研究結果に過ぎない。
スマホで検索ができれば、作り方や必要な物の成分などを調べられるだろうけど、使えない。
今できるのは、雑誌などから地球の知識を得た上でこの世界で同じ働きをする成分を探し出して試作してみるしかない。
道具であれば、物理的な形を思い出してある程度は作り出せる。
複雑な機構のものは、構造を知る必要があるので、本から探す。参考になるのは廃盤になってしまった 小学生向けの雑誌だ。子供にわかる言葉で様々な物の理屈が説明されている。詳しい絵図もある。
定期購入してくれたお客さんがいてくれてよかったと心から思う。
新しくアイテムリストから交換した科学教育雑誌には「ストームグラス」の制作キッドがついていた。
疲れていたこともあって、簡単そうなそのキッドに心惹かれた。
読んでくださりありがとうございます。
評価をいただけると嬉しいです。




