20 ロバと子供②
「あの…」
急に声をかけられた隆二が驚いて振り返る。子供が手をついてよろよろと起き上がっていた。
「おっ…目が覚めたか、気分は?」
「えっと…」
「まだ、あれだな。さっきの飲みきれなかった分も飲んだほうがいい。」
隆二がペットボトルを差し出すと、子供はごくごくと飲み干した。一気に飲んで大丈夫かと心配になる。
「まだ水が欲しいか?」
「うん」
「ちょっと待っていて」
隆二は、リュックサックの中から水のペットボトルを取り出した。2Lなのは、重石替わりだ。2Lを開けて、渡そうとしたが重すぎるか…。
「空いたボトルここにおいて抑えてくれる?」
「うん」
隆二は、水を開けてペットボトルへ移した。これで500だから重くはないだろう。
「どうぞ、それなら軽いからもてるだろ?」
「うん」
子供は、ペタンと座ったままそれを飲み干した。
「少しは落ち着いたか?」
コクリと子供が頷いた。
「なんでこんなところに倒れていたんだ?」
「…僕、行商人で…でも走っているうちにどこに向かっているかわからなくなってきて…水も食べ物も尽きて…その…」
「そうか、大変だったな。どのくらい食べていない?」
「一週間くらいかな…」
「そうか、結構長いな…」
そんなに食べていないで急に食べると死んでしまうのでは?
さっきスポーツドリンクを飲ませたが、あとどのくらいまで平気なのかわからない。
う~ん…おかゆくらいなら大丈夫なのだろうか?
お湯で薄めたものにしておこうか?全粥じゃなくて五分がゆくらいの感じか?
「そのまま待っていて」
隆二はリュックサックから取り出す振りをして、マイスマホを取り出し、アイテムリストから白がゆを取り出した。洗っておいた発砲スチロールのどんぶりに半分ほど出し水を足して電子レンジスキルで温めた。
子供の前に粥の入った丼を置いた。子供は目を丸くしている。
「スプーンとか食器は持っているか?」
「うん、あ…そこ…」
子供の指を指した方に布袋が転がっていた。開けてみると、小さな木製の椀とスプーンがある。隆二はそれに水を入れて軽く洗った。そこに粥を移した。
「ゆっくりでいいから食べなさい」
「ありがと…」
子供は椀にその粥を食べると、満足したらしく眠ってしまった。残った粥はインベントリへ収納した。6時間後でも1時間経過なら、次食べることはできるだろう。
毛布の一枚もないようなので、隆二は自分の毛布を1枚掛けた。
安い黒の傘を1本交換し、空き箱に入れて立てておく。これで日差しは遮れるはずだ。
それにしても…こんな子供が、こんな場所に一人で倒れているなんて…どうなっている?
子供とロバを放置もできないので、長めの枝を地面に立て、横にも組みあげ紺色のレインコートで屋根をかけた。屋根のみの小屋のようなものだ。ロバも日差しを避けられるので屋根の下へ入ってきた。
その隣にも枝を組み、車を囲える大きさの小屋にする。こちらは周囲のみを囲った。ドアを開けられる広さを取ったので、二つともほぼ同じ2㎡くらいの小屋になった。
隆二は車を出して、中へ転がった。少し窓を開けて、隣の声も含めて様子を伺える体制にした。