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2 スマホ

 隆二は、スマホを開いた。

 マップ、カメラのアプリアイコンが上段にあり、下に通話、業務、アイテムのアプリアイコンが並んでいるのはいつもと変わらない。

 マップは宅配経路が示され、業務の進行状態がリアルタイムで店に送られているらしい。

 カメラは、トラブル発生時に写真を撮り業務アプリで知らせるためだ。


 マップを開くと、野原とだけ出ている。マップを動かしてもどこまで行っても野原になっているのは壊れたのか?なんらかのバグが発生しているだけだと思いたい。


 きれいな場所だが、神様や世界の管理者が現れる気配はない。


 だめだ。完全に手詰まりだ。


 隆二は、スマホをホルダーに戻すと、サイドスペースの足元に置いているリュックサックを取り出した。

 水筒を取り出して、一口飲む。今朝、豆を挽いてから淹れたコーヒーは、飲みやすい温度になっていた。リュックサックの前面ポケットを開けて、個包装のクッキーとチョコレートを取り出した。お月様のようなまん丸で平たいクッキーはさっくりとしていて、バターの香りと甘さに頭が刺激される。コーヒーを2口飲み、チョコレートの包装を開ける。

 チョコレートは先月のバレンタインに訪問先で頂いた高級チョコレート屋のお得パックのひとつだ。

小林さんの娘さんが来ていて「いつもありがとう」と箱から手づかみで適当に取り出された物だ。4種類のアソートで、どれも美味しいがキャラメル入りが特に好きだ。

 自分ではなかなか買えないものなので、飾り気もなく渡されたとしても嬉しかった。


 正直言えば、近い年齢の女性にもらえたらもっと嬉しいが、そんなことはあり得ないだろう。女性とお付き合いしたのは、大学生の頃が最後だ。就職してからは、ブラック企業で寝る時間も碌になく、そんな余裕はなかった。体調を崩して仕事を辞めてからは、1年ほど引きこもりゲームと漫画三昧の生活をしていた。雇用保険はたった3か月で終わり、貯金を取り崩していたが、さすがに心許なくて働き始めた。

 以前のように働く勇気はなかったので、ある程度自由の利く配達の仕事を選んだのだが、生活はできるが保障はない。人付き合いは苦手なのを言い訳にするにはちょうど良い働き先だった。

 高級品は無理だが、日々それなりに好きな物を食べて、漫画を読んでゲームができる。それだけで満足で十分だった。

 

 いやいや、考え事をしている場合じゃない。

 

 隆二は、頭を振るとスマホの業務アプリを開いた。

 現状の報告はしないと困るだろう。そう思ったが、アプリはいつまでも読み込み中で開けない。

 まいったな…。

 通話ボタンを押しても同様で、電話帳すら開けない。


 

 あっ!そうか、仕事用のスマホの電波が悪い可能性もあるのか。

 隆二は、リュックサックからマイスマホを取り出した。

 マイスマホを開くと、いつも使っているゲームのアイコンを含めてきれいさっぱりなくなっていた。

 並んでいるアプリアイコンは、上段に箱、メモ、カメラ、レンズの4つ、中央に高度計、光度計、距離計測、平行計の4つ、下段にマップ、通話、評価の3つのアプリだった。


 隆二は頭が痛くなってきた。

 誰のスマホだ?どこかで差し替えられたか?いや、でも顔認証で開いたはずだ。

 中央のアプリを見ると、土建屋が入れていそうなアプリで戸惑う。今まで一度も入れたことはないのだ。

 

 マップを開くと、大陸地図のようなものが出てきた。7分割されていて中央西南に赤いマークがあるので現在地なのだろう。「帝国」とだけ書かれている。その周辺の6つにも、「王国」「公国」「未開地」と書かれていた。

 日本地図ではないところを見ると、いや地球のどの大陸とも合わない形を見るとやはり異世界か?

 

 異世界か?


 だとしたら、チート能力があるはずだ。いやあれは物語の話だ、現実じゃない。隆二は頭に浮かび上がる可能性を打ち消す。

 通話を開いてみる。こちらはぐるぐるしていて読み込む気配はない。仕事用スマホと同じようだ。

 電源は100%、電波はフルに立っている。

 う~ん…。

 

 評価って何だろう?

 何を評価されるのか…正直怖い。

 労働者としては、体を動かすのも頭を動かすのも苦手で評価が高くなる要素がない。

人間としては…人と関わるのが苦手で、顔見知りとしかうまく会話ができない。一人暮らしをしているが、家事は適当でうまくはない。

動物としては、子供がいてもおかしくない年齢だが、いない。出来る見通しもない。

 こう考えると、生き物としても、労働力としても評価されるところがない。


 でも、今はアプリを開いて確認していくしかない。マップを見た限り、違う場所にいる。戻れる保証はないし、現状を把握しないで動くのは危険だ。

 見る限り野原しかないので、この世界の文化水準が全く不明なのだ。漫画のように、武器を持ち歩くのが当たり前の世界であった場合、俺には何の武器もない。


 隆二は、勇気を振り絞って『評価』を開いた。


 名前 加藤 隆二

 年齢  28

 性別  男

 HP  1500/1500

 MP  5000/5000

 言語   ---

 家族   ---

 スキル マイスマホ、コンビニ(宅配・車・スマホ)、電子レンジ

 称号  世界を渡りし者


 

 「ステータス画面かよ…しかも言語と家族はなしって…言語くらいチートで付与されていないのかよ。」

 「スキルのマイスマホとコンビニ宅配って…車はいい、スマホ二つだし、持っていた物だからってスキルにスマホ2つ…その分他の能力でも…それに電子レンジってなんだよ…温めるだけじゃないか…」


 隆二は、自分の評価を見てがっかりしていた。

 スマホがあるのに、検索画面すらない。検索出来ればかなりのチートなのに、そんな物はなかった。

 思ったようなチートではないのだ。勇者のような剣の才覚とか、素手で戦えるファイター、肉体派が無理でも賢者とか物語ではいろいろとある。それなのに、そういった能力は一切ない。

 異世界転移してもポンコツな自分に隆二はうんざりしてしまった。


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