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「ただ…貴方のアイデアは悪くありません。」
「え?」
アカサは思いがけない言葉に顔を上げた。
水浴び場のオーナーは怒ってはいない?
「お客様の服を間違えては困りますから、そうですね…例えば、許可をもらい色糸を縫い付けて、引き渡しで抜くのはどうですか?お客様には色糸のついた札を渡せば間違えないでしょう。」
「それはとてもいい考えですね。でも…その色糸を手にする手段が…」
「なるほど…そうですよね…」
「はい…」
「アカサさんは縫物が得意なお知り合いはいますか?」
「はい、元縫子だった子がいますが…」
「では、その方と二人で仕事としてやってみませんか?もちろん人を雇っても構いません。」
「は?」
「そうですね。洗い桶や水切り樽などはアカサさん専用のものを用意しましょう。物干し竿も5本ほど用意します。針と糸もこちらで用意します。洗濯石鹼は3杯分つけます。」
「へ?」
「こちらへは…場所代、道具代として小銀貨10枚を毎日もらいます。」
「小銀貨10枚は…ちょっと…」
「支払えるはずです。」
「でも…」
「では、最初の2日分は後払いでもいいですよ。」
「そういう問題では…」
そこまで言って気が付いた。
これは罰だ。2日分小銀貨20枚で許してくれるという意味に違いない。そう考えれば安いものだ。客がつけば持ち出しは少なくて済む。
「わかりました。よろしくお願いします。」
罪を犯して小銀貨20枚の罰金は破格の安さだ。
手を切り落とされることは普通にある。その結果、出血多量や高熱でそのまま死ぬこともある。それと比べれば大したことではない。
幸いにも服を売ったお金もある。支払うことはできるのだ。
家に帰らずにアカサはセイの家へと向かった。
「セイお願い、縫物は得意よね。」
「なんだい?服のお直しかい?」
「ちょっと違うけど…明日、明後日…2日間仕事を手伝ってほしい。」
「はぁ…いいけど、いくらの仕事だい?」
「小銀貨2枚で1日ではどう?」
「それはいいね。もちろんやるよ。」
セイの約束を取り付けたアカサは家へ戻り自分の手を見ていた。
最初に挨拶をして許可を得るべきだった。あのリュウジさんという人は怒っている様子ではなかった。でも…それが本心かはわからない。
貴族や商人たちは、笑顔を浮かべながらとんでもないことを考えているものだ。
もしかしたら…私の体が狙われているのかも?
いやいやそんな馬鹿な…でも、それならわからなくもない。私は町の中ではそれなりにかわいい見た目をしている。娘時代には、たくさんの男に言い寄られていた。
そうか…支払えなければ体をと言いたいのかもしれない。
アカサはありえないことを考えているうちに眠っていた。
翌朝、それを思い出して自己嫌悪に陥る。
いくらなんでも…立場もある若い男が、年上の私を相手にするはずがない。
「それで、あたしは何をするんだい?」
「それが…実はね…この間連れて行ってくれた洗濯場で洗濯を代わりにする仕事をしていたら、オーナーに見つかってさ…」
「は?」
「それで、今日と明日…2日合わせて小銀貨20枚支払って、洗濯代行の仕事をすることになって…」
「小銀貨20枚って…あんたそれ支払えるの?」
「支払えないよ…支払えるように洗濯物をいっぱい洗わないといけないのさ。」
「それで…あたしは何をするんだい?」
「客の服がわからなくならないように、色糸をつけてほしい。」
「色糸なんて…どこにあるんだい?そんなもの持っていないよ…」
「それは、オーナーさんが用意してくれるらしい。」
「はぁ?」
いつも通り入口で支払いをしようとすると「いらないよ。水浴びをするなら声をかけておくれ」と言って通された。
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