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いつもより長めです。ご注意ください。



 レイラは、子供たちと盥に戻ると、服から茶色い水が出ていた。それを手でこすり洗いする。見慣れない茶色い水は石鹸なのだろうけど、ずいぶんと茶色い。

 体を洗うために使った石鹸は小さくなっていたので、洗濯物に乗せておいたが、そこだけが白っぽくなっていた。 

 レイラはその液で何度も洗うと水で流した。



 「あれ~?それ私の服じゃないよ?」

 「いや、これはうちの服だよ。ほら」



 子供に当ててみると、着せていた時のイメージができる大きさだ。

 何度か濯ぐが、汚れがとまらない。



 「あんた、すすぎなら洗濯場でさせてもらいな。その前に踏み洗いをするとよさそうだね。」

 「踏み洗い?」

 「ああ、盥に入ってその足で服を踏むんだ。」

 「あたしやる!」



 子供が盥に入り小さな足で踏んでくれる。また茶色い水が出てきた。ある程度まで流すと「軽く絞ってついておいで」と声をかけてくれた人に着替えの服を着てついていく。



 「ここに竹があるから服を通して、そこにひっかけてごらん。」

 「はぁ」

 「ほら、これで少し待てばすすぎが終わるよ。」

 「これは便利ですねぇ。あの笊はなんですか?」 

 「あれも洗濯物さ。洗剤を買うと使えるものがあるんだよ。」

 「へぇ」

 「すすぎを終えたら、ここの棒にこうやって半分にしてねじると水が切れるからね。あまり強くすると布がダメになるからお気をつけよ。」

 「わかった。ありがとう」



 レイラは、教わった通りに立っている棒にひっかけて服をねじった。手で絞るよりずっと簡単に水が搾れる。


 

 「こんなに簡単にしっかりと搾れるなんて…」

 「あたしもやりたい!」

 「僕も!」

 




 子供たちも自分の服を絞り始めた。レイラは息子には力を入れすぎないように注意をしておく。

 周囲を見ていると、籠を持った人が樽に籠を入れて蓋をして、蓋についている棒を回した。樽の横から大量の水が流れてくる。

 しばらくすると、蓋をあけて籠の中身を盥へと逆さまにして開ける。

 服はまるで乾いた服のように軽やかに落ちてきた。



 「見たかい?脱水機といってね、水を絞る道具さ。あれにかけるとあんなにまとめて水が切れるんだ。」

 「ありゃあすごい道具だね。」

 「だろう?」

 「あんな道具まで使わせてもらえるなんて、洗濯石鹸っていうのは高いんだろ?」

 「それがそうでもないさ。1回分が小銀貨1枚だ。何枚でも洗えるし新品のような色になるからって、大人気だ。最近じゃあ古着屋をよく見かけるんだ。」

 「なるほどねぇ。確かに体を洗う石鹸でもこんなに落ちるなら、専用の物を使えばきれいになるんだろうね。」

 「そうらしい。あっ、スープ屋が開くから…」

 


 声をかけてきた人は、あっという間に小屋の方へ行ってしまった。レイラも盥に洗った服を入れて行列に並ぶ。



 「1杯小銀貨2枚だって」

 


 前の人から伝わってきた金額を後ろの人へも伝える。

 女は、小銀貨4枚を手にした。本当にここでスープを買えるらしい。



 「食べていくなら、そっちで器を受け取って、持ち帰りならここに器を出しとくれ。」

 


 売り子の奥にテーブルセットがあった。

 奥へ入り、小銀貨4枚を置くと、深皿2つにスープが盛られた。そこにスプーンが2つ渡された。


 スープを持って空いている席に座る。

 子供たちはわくわくしているのがわかる。下の娘を膝にのせてスープを飲ませる。



 「う~ん…おいしいなにこれぇ」

 


 深皿のスープの入っているところの色が濃いので液体そのものに色があるらしい。娘はとろけそうな顔をしていて、つぎを食べたいと口を開けている。

 スープには白い粒と緑の葉、それから黄色いものが入っているようだ。



 「この黄色いのはなんだろう?この白いのは麦みたい?」

 「そいつは、卵だよ。今日のスープは卵入りさ。」



 売り子の言葉に、ざわっと声が大きく上がった。

 卵なんて高級品はそう口にできるものじゃない。それをたった小銀貨2枚のスープで出しているなんて驚いてしまう。女も食べてみると、麦がプチプチとしていて卵のおいしさなのかわからないが、とんでもなくおいしいスープだった。いつもの塩水のようなスープとは違う味にこれは卵の味なのだと思った。

 


 「卵のスープっておいしいね」



 子供たちの言葉に女はうなずいた。

 レイラは数口しか食べられなかった。その代わり息子も娘もたっぷり食べて満足そうなのでよしとする。家へ持ち帰って洗濯物を干すと、とても白っぽくなっていた。しかもよく絞れているので日が暮れる前には乾いてくれた。



 「今日はすごくいい日だったね。」

 「うん、そうだね。」

 「また行きたい。」

 「僕も行きたい。」

 「うん、そうだね。」



 一日働いて得られるのは小銀貨1枚だ。

 1週間働いて、やっとあそこに行って食事ができるくらいしか稼げない。そう思うと、難しいと思うものの、あのスープの味は忘れられそうにない。

 数口しか飲めなかったが、それでも体が軽い気がする。

 乾いた髪はとてもサラサラで自分の髪とは思えないほど艶やかだった。




読んでくださりありがとうございます。

評価をいただけると嬉しいです。


今日はあと2話更新予定です。

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