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毎日水浴び場に来る工場の女性たちは、福利厚生として無料で入ることができた。石鹸は商品にならない欠片を週に3回ほど渡す。洗濯石鹸は有料で彼女たちはたまにしか買わない。
町の人たちは、当初はあまり来なかったが、噂を聞いて少しずつ人が来るようになった。
「一人銅貨5枚だよ。子供は銅貨1枚だから7枚だね。」
「わかった…7枚だよ。」
「確かに。それじゃあこれが石鹼だよ。濡れたら溶けるからね。石鹸は水槽近くのすのこのところで使うこと。それと石鹸は水で樽の水で流してから水槽に入るようにしておくれ。」
「わかったよ。」
疲れた顔の女が子供を連れてやってきた。洗濯石鹸を買わないようだが、洗濯場は使わないつもりだろうか?
「洗濯場は使うかい?」
「使いたいが、洗剤を買わないと使ってはいけないだろうか?」
「そんなことはないが、洗剤を使うと信じられないくらい汚れが落ちるよ。」
「そうなのかい。でも、今日はいらない。」
「わかった。水浴び場で洗うつもりなら、石鹸で洗って流すときに盥にでも溜めてそこに服をつけると多少は違うからやってみるといいよ。石鹸で髪を洗うとサラサラになるから、頭も擦ったほうがいいけど、目に入ったら痛いから気を付けてね。」
「そうなの?」
「うん、それとね。もう少しで麦スープの販売が始まるから出てきたら丁度いいかもしれない。ここで食べるなら容器も貸してもらえるよ。」
「わかった。ありがとう。」
疲れた顔と思われてしまっているレイラは、子供たちを連れて水浴び場へと向かっていく。
水浴びなんてお金を出さなくてもできることだ。それをわざわざお金を出して入ったのは、昼間は働いていて買えない食べ物が売られていると聞いたからだ。
石鹸で体を洗うというのは、初めてだったが受け取ったからには使わないと。教わった通りに盥の水を子供たちにかけると、拭き布を濡らして石鹸をこすりつけた。青白い石鹸から真っ白な泡が沸き上がる。
「わぁ、なにそれ」
「これで体を擦るよ。」
「わーい、面白い。体をこすると泡が消えるね。」
子供たちの体をこすると、茶色い水になっていく。大きめのたらいの上で体を流した。
「頭に水をかけるから、目と口を閉じて耳をふさぎな。」
「うん」
子供に水をかけて、石鹸をこすりつける。泡がたち茶色い水になって流れ落ちてくる。そこに水をかけて流した。
「今度は母さんの体を洗うから、あんたたち水をかけておくれ。」
「うん」
自分の体をこすると、やはり茶色い水になって落ちる。頭にも水をかけてもらって石鹸をこすりつける。目をつぶっているので手探りでやっていると子供が水をかけてくれた。髪がキシキシと今までなかった手触りをしていた。
「それじゃあ、ちょいと待っていて。」
茶色い水のたまった盥に持ってきた服を付けた。水浴びをしてから洗うつもりだ。水浴び
場には石で作られた水槽があり、浅いところと深いところがある。浅い方は子供の腰くらいなので、子 供も安心して座れた。
「わ~ここ気持ちいいねぇ」
「そうだね。気持ちいいね。」
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