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「今日は、畑について説明します。」
隆二は、5番の畑にいるシドと研修生を前に説明を始めた。説明しながら、家へと向かう。
「畑には、肥料というものを撒きます。肥料になるものはたくさんあり、厠跡から掘り出した土もそうです。あとは台所のかまどの灰、囲炉裏の灰など草木を燃やした灰もそうです。それぞれ違う性質があり、目的により調整します。多すぎてもよくありません。」
「多すぎたらどうなる?」
「多すぎると根を痛めて育ちません。」
「肥料をまいてすぐに植えてどのくらいで…」
「肥料を撒いたら、土と馴染むまで10日から、2週間かかります。その間は種は蒔けません。」
「そんな…」
「4番の畑を置いてあるのはそういうことです。5番に厠の土と灰を混ぜてから4番の畑に畝を作り種をまきます。」
「畝?あそこは小麦畑だ。畝なんていらないだろう?」
「その考えは捨ててください。」
「なんだと!」
「ここは小麦、ここは芋と決めたから今の状態になっています。同じ作物ばかり育てると、同じ栄養が枯渇し、使われない栄養がたまります。あまりにも偏った土地では作物は育ちません。」
研修生の肩をシドが抑えていた。
「ヒロの家の元小麦畑を見ましたね?小麦ではない作物がたくさんできていたはずです。」
「それは…」
「小麦を植えている畑は、元は別の畑ですよね?どうでしたか?青々と茂っていると思いますが…」
「ああ、その通りだ。」
シドの同意に他の者たちは口を噤んだ。研修生たちが落ち着いたようでシドは手を離した。
「畑は基本的に4年に1回同じ作物を作ります。これを輪作といいます。」
「豆を植えた翌年に麦、麦の後にはトウモロコシ、次に芋です。」
「それじゃあ畑に植えない時期はどうする?育てないのか?」
「いいえ、もちろん使います。絵図を用意したので家に着いたら細かく説明します。」
「同じ作物を作ってはならないというのは分かった。だが、厠の土は1回、せいぜい2回分しかないだろう?灰は1回分しかない。そのあとはどうするつもりだ?」
「灰については、作物を収穫したら葉や茎が出ます。餌になるものはもちろん餌にしますが、どうしても向かないものもありますので、そういった物を畑に穴をあけて風のない日に燃やします。」
「なるほど…ロバの餌も大事だよな…。」
「それと、森にある朽ちた葉は腐葉土と言って肥料になります。」
「ほぉ…森か…」
「それから肥料ドロップも開発中なのでお待ちください。」
「肥料ドロップ?」
「みなさん、これです。この壁の板を見てください。」
そこには、板に油性マジック3色で書き込んだ絵が描かれている。文字を読めない人でもわかるようにと書いたのだ。
「この◎は、肥料です。上から1番一番下が5番です。」
「では一番下のこの段を見てください。ここが5番の畑です。肥料まで行きましたので、2週間後にとうもろこしを巻きます。それを収穫したら、次は肥料をやって大豆を撒いて。来年の春には小麦を収穫します。そのあとは、輪作の計画に合わせてこの一番下と上のような順で動きます。」
「なるほど…これなら一目でわかるな…それにしても来年?さっきと話が違うのでは?」
「まあそうですが…輪作の手順は踏んでいますし、今は小麦が必要なので苦肉の策です。」
税として納める分が必要だとわかってもらえるはずだ。
研修生達は押し黙ったが、シドは顔を明るくしている。
「それなら、毎年とうもろこし、大豆、小麦、芋で植えていけば…」
「それでやっていると2年で1周できますが…肥料もかなり必要になりますね…。」
「肥料…確かに…」
「でも、それをやってみるのも悪くはないと思います。間の短いところは小松菜か蕪くらいなら植えられるでしょうし…。」
「肥料なんて、今まで使ったことはないんだが…」
「そうですか…何にもなく作物はできないので、まじないなどもなかったですか?」
「まじない?」
「はい、例えば畑で藁を燃やして天に祈ったり、骨を撒いたり、そういった類のものです。」
「あ!」
研修生の一人が声を上げた。シドも難しい顔をしている。
研修生の1人話し始めた。
「昔、爺さんたちがまじないをしていたな。しなくても作物は出来ていたから迷信だと言って親父たちくらいからしなくなった。」
「ああ、そんなこともあったな。」
「思い出してください。どんなまじないでしたか?」
「獣を木組みに入れて焼いていたな。天への供物だからって…それに…」
研修生は声をひそめる。周囲の研修生にも心当たりがあるらしい。
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