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いつもより長めです。
研修生たちが畑へ行くと隆二は倉庫にこもり、スライムの研究をする。
石鹸を作るために、いろいろと試行錯誤をしていた。
石鹸はアイテムリストにあるので、交換で手に入る。だが、それではこの世界にとっての異物だ。この世界の材料で、この世界の人が作れるようにならないと販売するのは危険だと思っている。
俺だよりの物事は早々に破城するし、俺は閉じ込められてアイテムに交換するだけの自販機のような生活はしたくない。
だけど、この町の人たちの生活は、あまりにも不衛生で見ていられなかった。
つい洗濯洗剤と石鹸を与えてしまった。
どこかで、洗剤を別の物に差し替えないと隆二のMPだけでは回せなくなる。全ての物がそうだが、できるだけこの世界の人にはこの世界の物でどうにかしていかなければならないと考え始めていた。
森で、いくつかの変わった植物を見つけていた。
オイルの実とシャボン草だ。
オイルの実は、ライチの実のような見た目だが果実の油が多く、生で食べると下痢をしてしまうらしい。
ネジを回して圧をかける圧搾機を作り、実を絞り上澄みの油を集めることはできた。この油を250度に一度熱して冷ますと下痢をしなくなり、料理に使えるようだ。
汁の方は、真っ赤だった。リンとカリウムが多いので肥料になりそうだが、生のままでは根が傷むらしい。こちらも過熱をすることで肥料にはできたが、この世界で液体は誤飲しやすいので容器に特段の工夫が必要になるだろう。そのままでは日持ちもせず扱いにくいため、スライムでゆるく固めてある。こうすることで、半年くらいは持ちそうだった。
シャボン草は、名前のままで水に入れて揉んでいると泡が出る。
だが、それだけで汚れを落とす効果はない。だが、インベントリで説明を見ると鹸化させる効果を持っていた。
オイルの実の油とシャボン草のしぼり汁、それに同量の緑スライムの身と透明スライムの核、それらを混ぜ合わせ固めのグミのような固形石鹸を作ることはできた。
緑スライムの量を変え、青スライムの核を使うと青い液体石鹸になる。
試行錯誤の末に、そこまではできていたので、工場の女性陣が慣れてきたら作ってもらおうかと考えていた。
彼女たちは、日に500体のスライムを加工していた。すでに2週間たっているので青と透明それぞれ3000体分ずつのドライスライムが出来上がっている。
スライムの核もそれなりの数が溜まりつつある。そろそろ別の作業に入ってもらいたいと思っていた。
そうするにあたり、透明スライムと青スライムの残数調整を行ってからインベントリへ入れ、増数も今までよりもゆっくりとするつもりだ。
粉末青スライムと透明スライムも大量にできていた。
出来上がった物は、シアンが小さなジッパー袋に入れてくれており、1袋はスライム1/2個分だ。それが日に10袋ずつ出来上がるので1か月で120袋ずつ出来上がる計算になる。スライム塩にするにも多すぎる。
緑スライムはよく増える。
竹を好むので、竹細工屋に竹くずを譲ってもらい、山で集めた竹の葉も与えていた。
隆二は、オイルの実の収穫に悩んでいた。落ちた実で実験をしていたが、商品を作るにあたっては大量に必要になる。オイルの実はただでさえ背が高く手の届く場所に実はつかない。インベントリへ入れるにしても届く収集範囲から外れた部分の収納はできないので、木をまるごと収納するしかない。
いや、それでもいいのか?やりようはある。
隆二はひらめいた事を試すために森へ行った。1本のオイルの木を収納し、開けた場所で取り出した。取り出し位置を地上1mほどに指定すると、ドスン!と地面が揺れた。横倒しにして普段見えないところを見る。想像以上に大きいのは根が地上部と変わらない長さだからだろう。
上部の周囲にはオイルの実が無数に散らばっていた。
「リリー、オイルの木を収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
「リリー、周囲の熟したオイルの実を空の木箱に収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
「リリー、オイルの木を収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
「リリー、周囲の熟したオイルの実を空の木箱に収納して。」
『かしこまりにゃん♪』
2度繰り返すと、木のあった場所に取り出して元に戻した。
元の位置に出しても、細かい根などはどうしても元通りにはならないが、木は実の大半を落としたことで、枯れることなくすぐに持ち直した。
それから10数本の木を同様に行い、大量のオイルの実を手に入れた。1本の木に1万個近くなっており、未成熟な実は残したが、到底人が一生掛かっても収穫できない量を隆二は数時間で収穫していた。
オイルの木は、まだまだ森の奥の方まで続いているようだった。
シャボン草は群生地を見つけたため、隆二はその場の2/3を収穫した。そして、似たような森の中の土地に数十本植えなおす。
今後のために群生地を増やしておこうと考えた。
隆二は、時間があるときに少しずつオイルの木を収納しては、実を回収して戻す作業を繰り返した。あまりにも密集している場所を見つけたので、間引いていく。
間引いたオイルの木は森の南側の平地に移植していた。
移植してからオイルの木は奥まった土地にあったのを思い出した。そのため、森の入り口近くの木も間引いてその手前へと移植する。数か月後には多少風通しのよい森がひとつ出来上がってしまっていた。
本来の森とオイルの木を植えた間の空き地は、インベントリへの土収納で耕し、こちらには試験的に作ったオイルの実を絞った液で作った肥料を塗布していた。そこにシャボン草も植えた。広がってもいいようにまばらに3株ずつ植えていく。
「今はとりあえず根付いてくれ…そして、いつか群生地になってくれたら…」
隆二は、今後の石鹸の製造を考え願ってしまう。
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