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その日、シドの声かけにより農業ギルドの主要メンバーが研修に来た。
夜明け後と伝えていたが、裏に出た時にはシドと4人がいて4人は畑を凝視していた。
隆二は、教えるとなるなら少しは丁寧に接するようにしなければと気を引き締めた。
「おはようございます。リュウジさん。」
「シドさん、皆さん。おはようございます。」
「あの…これ、どんな魔法を使ったらこんなに…」
「これは、魔法ではありません。土づくりをしています。あとは日々の手入れも必要なので、順番にお教えします。」
「はぁ…」
4人とも、ほぼ骨と皮で頬はこけ目がぎょろついていて見えていた。立って動いているのが不思議なくらいだ。
「仕事の前に、こちらを飲んでください。飲んでいる間に作業の説明をします。」
「わかった。」
「すまないな…」
「ん?これは…」
シドも含めて5人に用意したのは、カスタードをかなり薄くしたものだ。規定量を飲むともれなく眠ってしまうらしい。それを聞いていたので通常の半分量を薄めた物を渡した。
眠くなるのは、体へ栄養を送ろうという本能だったがそんなことは隆二にはわからない。
「今日はうまい物を飲ませてもらったし、動ける気がする。」
「ああ、なんたってこの畑を見れば希望が湧いてくる。」
「おれっちの畑もこんな風にしてーな…」
セドがコホンと咳払いをすると、研修生たちの視線が隆二に集まった。
隆二は、それを合図として説明を始める。
「これから…朝は、ポンプで水やりをします。今日は、蕪を売りますので130本抜いてから土を落としてもらいます。」
「蕪!?」
「はい、そろそろ売れる大きさになったので、100本は屋台で売り、残りは粥とスープの店に売ります。」
「そいつはすごい。」
「町に畑の野菜が並ぶなんて1年ぶりでは?」
「ああ、そうだな。」
「ご覧の通り、毎週売り出せます。130本は畝の半分より多めですが、残りは店に売るので、その都度抜きます。」
「なるほど」
「それが終わったら、雑草抜きをして、それから土づくりを5番の畑でしてもらいます。」
「土づくりっていうのが、これだけの豊作につながるんだな?」
「そうです。力仕事になりますので、がんばってください。」
「それでは、水やりポンプの使い方をヒロに教わってください。そのあとで、2人で水やりをお願いします。別の2人はシドさんと蕪を抜いてください。」
「わかった」
隆二は説明を終えると、家へ戻った。
自分たちの朝食を作り、リリアさんに運んでもらうスープ屋台用の籠とスライム工場用の食材籠を作った。
研修生にも朝食は必要そうだ。
大した労力にはなりそうもないが、あの様子ではあまり働けないだろう。
今日は卵と小松菜の入った雑炊だが、粥のようにもったりとさせている。どこを掬っても米と具が乗るようなものだが、今のこの土地ではおかしいらしい。リリアは苦笑して受け取っていくので、それを研修生に出すつもりもない。
1人分をお湯で薄めて少しのスライム塩を足した。
リリアにもスライム塩は渡してあるので、味の調整は自分たちでしているだろう。彼女たちは相変わらず半分をセドの家へ運んでいるようなのだ。
「水やりポンプすごい…あんな広さに水やりなんて馬鹿げたことと思ったが、あれならできる。」
2人が戻ってきて、蕪を洗っているセドたちに話しかけているようなので、外に出て見たが立ち姿がふらふらとしている。
「みなさん、少し休憩してください。ヒロは家に入りなさい。」
「はい」
「みなさんは、こちらのテーブルへどうぞ。手を洗ってきてくださいね。」
「えっ…これは?」
「薄いスープです。少しですが米と小松菜と卵が入っています。それと、今収穫してもらった蕪を薄切りにしました。味見をどうぞ。」
「卵!?」
「ほんの少しですよ。召し上がって、湯冷ましもどうぞ。ヒロが出てきたら5番の畑を耕します。かなりの力仕事ですからがんばってください。」
「もちろんだ。」
隆二は家へ戻ったが、後ろから「うめえ!」「蕪が甘い!」と聞こえてくる。彼らの家にも家族はいるだろうけど、全員をどうにかしてやることは出来ない。
できないが、手伝いのお礼にほんの少し麦を持たせてもいいだろう。
米ではなく、麦なのは半端なMPを押し麦にしていたのでかなりの在庫ができていたからだ。隆二は竹カップにスプーンに山盛り1杯、たったそれだけの量を渡すことにした。
彼らが5番の畑に行くと、ロティに蕪売りを頼んだ。売り場はあの小屋だ。
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