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ヒトエの服は2着ずつしかないので、1週間着た切りなのだ。小さな子はよごすので、都度手洗いをしていた。家族4人分の洗濯物を盥に入れて持っていくとリュウジさんが小屋にいた。
「洗濯洗剤、一回分小銀貨1枚、今日は特別に脱水機も使えるよ~」
その呼び込みをみんな遠巻きに見ていた。
洗濯場が整備されて使いやすいのを喜んでいる人は沢山いるようだ。
「ひとつお願いします。」
ヒトエは、昨日渡された小銀貨を隆二へ渡した。隆二が明日来るならと給金とは別にくれたのだ。
「はいよ。盥に入れますよ~」
大きな声でそういうと、盥に洗剤を入れてくれた。いつも通り水を入れて洗濯物をつける。いつもの制服は数時間着ていただけのものなので、それほど汚れていない。
自分の持ってきた服はかなり汚れていたらしく少し置いておくと黒い汚れが出てきた。
「ええ?こんなに汚れていたの?」
「ヒトエどうしたの?」
「いやね、洗剤を買って使ったら…これ見てよ。うちの服こんなに汚かったみたい。つけているだけでこんなだったら、洗ったらどうなるやら…」
ヒトエは今までなら手で洗うのだけど、仕事と同じように足で踏んだ。足で踏む度に黒い水が出てくる。あまりに汚いので、念入りに踏み、服を手でひっくり返してまた踏んだ。それを見ていた人たちが集まってきて、その様子を見ている。
ヒトエは水を流して新しい水を加えるともう一度踏み洗いをした。
それを手で絞り、籠を借りて水槽に入れた。しばらくして汚れた水がでなくなったら脱水機に掛ける。手で樽のハンドルを回しているのを見て、また周りがざわついていた。
その間、盥は伏せて完全に水を切っている。
水音がしなくなったのを確認して、蓋を開けて中身を盥へとあけた。ぱさぱさッと落ちる様子を見て、どよめきが起きる。
「こんなに水が切れたら、すぐに乾くよ。洗濯時間も短くて助かりました。」
リュウジさんへ心からの感謝を伝える。
数人がリュウジさんの元へ向かった。
そして、数人が寄ってきた。
「ちょっと、それ触らせて」
「いいですよ」
「えっこんなに水が絞れるの?しかも随分白っぽくなって」
「そういえば、そうですね。買ったときみたいな色かも…」
「そうだよね、着ていたら洗ったって黒ずむもんだけど…これは新品みたいだ」
そんなはずはないけれど、みんなの持っている服よりは明らかに明るい色になっていた。こんな色ではなかったはずだ。
見に来た人達の目の色が変わった。
そして、翌日シアンさんには、洗濯小屋にこの鍵を見せるように言われた。
行ってみると、洗濯場には女性が立っていた。
昨日と同じように洗剤を売っているらしい。
噂を聞きつけた女性たちが洗濯に来ていて、説明を受けながら洗濯をしていた。
ヒトエは倉庫の中から特別な盥を取り出して選択を始めたけれど、珍しい盥を使っているので凝視してくる。洗濯物から離れると盗まれそうで濯ぐ間もそばを離れられないほどに人が集まってきていた。
宣伝としては十分な貢献をしたようだ。
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