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皆家族を枯れ死病で失くしているし、今危ない人を抱えてもいる。
「うちは、母にカスタードバーを食べさせました。全部は食べられなかったので妹にも…二人とも今朝は顔色がよかったので、湯冷ましに塩を入れて飲ませて来ました。今日ももしあったら買って帰りたいです。」
「うんうん、そうだよね。」
「母が、塩を入れるときに袋を見て、美しい袋に入った高級な塩って感激していて…」
「うん、それわかる。あの袋の美しさったらなかった。」
「私は髪がきれいって褒められて」
「髪もそうだね」
「リュウジさんのくれた櫛で梳かして帰ったからだよね。サラサラしていて褒められるの」
「うんうん」
「そうそう」
「このゴムっていうの、仕事中しか使えないの残念だね。」
「そうだねぇ、でもこれはいいものだもの。失くしたら大変。」
「あっ…あの…」
「ヒトエどうしたの?」
「リュウジさんが、洗濯場で水浴びをしてもいいですよって」
「ええ?」
「それと、石鹸もひとつくれて…今日水浴びに行く人はこれで洗ってタオルも洗っておくようにって…」
「石鹸で体を洗うの?」
「はい、そのように言われました。」
「それってやっぱり…」
「そういう事かな?」
「私たち全員?」
「まさかぁ…」
「でも、そうだよね。こんなに食べさせてくれて、お給金だって…」
「確かに…別の目的があっても…」
「コホン」
咳払いに驚いてそちらを見ると、シアンさんが困り顔で壁に寄り掛かっていた。
恥ずかしくて顔がほてるのがわかる。
「安心してください。リュウジさんは大変優しい人なので、そのような目的はないと思います。」
「そうなの?」
「はい、信じられないと思いますが、出会ったことを幸運だと喜んでおけばよろしいでしょう。それと、今日はもうリュウジさんは来ませんが、仕事はたっぷりとあるので頑張ってもらいます。」
「はい、それじゃあ湯冷ましを飲んで、片づけよう。」
「片づけたら、洗い物はユリナさんとヒトエさんにお願いします。他の方は手を洗って先ほどの続きをしましょう。」
「はい!」
ヒトエは、水樽の水に食器をつけて用意してくれた布でこすり洗いをした。それから水樽の水を交換して濯ぎ、笊に乗せて水を切る。
そのまま棚に乗せて乾かした。
外に出て、洗濯物が乾いたので取り込んで畳む。
あの脱水機というもので水を切るとこんなにも早く乾くなんて感動してしまう。
「あの脱水機、普段使いしたいですね。」
「そうだね…でもそうはいかないよ。壊したら大変だ。」
「そうですよね…」
午後からは、ロッカールームの掃除をした。結構髪の毛が落ちていた。土間ではないので、用意してくれた箒と塵取りを使って掃き清めた。
ゴミは、庭に穴をあけて捨てた。
庭には厠が用意されているが、それも変わった作りをしていた。
個室があり、その中には水樽も用意されている。用を足したら、水樽の水で手を洗うようにと言われていた。足で押すだけで水が出るのでとても便利だ。
台所や手洗い場もそうだけど、この水樽が家にあればとても便利になる。水を汲んでくるのも水瓶に水を移すのも、使うのも大変だ。水樽なら汲むのは大変だが、架台に乗せれば使いやすい。これがあるだけで生活がいろいろと便利になる。水瓶とは全く違う使い勝手だった。
しばらくは食べ物を買うので精いっぱいだけど、いつか手に入れたい。食べ物以外の物でほしいものができたことに驚いてしまう。つい数日前までは、今日明日何を食べられるかしか考えていなかったのに不思議なものだ。
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