18 ごろごろ
隆二は集落が見えなくなるまで走ると、車を取り出してしばらく走った。衝撃吸収にしているのに口は真一文字に結んでいる。
適当な方向に走ったので、森からスタータンを抜けてまっすぐに突き抜けたらしい。
岩がところどころにあるものの、木も生えていない荒野が広がっていて生き物の気配がない。
変なところに来てしまった…そう思うけど、来てしまったのだから仕方がない。
一息つくと、外に出てからバナの葉の容器を取り出して顔を洗った。タオルを濡らし、車の中に戻って体を拭いた。
「はぁぁぁ…怖かった…」
クッキー5箱の損害で済んでよかった。あの鍬や鉈で攻撃されても反撃できない。回復アイテムの誠実があったとしても、食べられずに死ぬかもしれなかった。
そう考えると怖くなる。
次に人に会う時や危険なことをする時には、すぐに取り出せるようにインベントリへ誠実を入れて置いたほうがよさそうだ。
対応策を考えると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
お茶を飲んで、アイスを食べよう。サイダー味の氷菓を食べると、喉も体も冷やされていく。
それにしても、あの人たち見たことのないくらいやせ細っていた。
いや、それは違うか…写真では見たことがある。紛争地域で並ぶ子供たちはあんな感じだった。
服も生成りしか見えなかった。色染め技術がないとは思えないけれど、その可能性もなくはないのか? そうなるとかなり原始時代の可能性もある?いや、でも…鍬は鍬だとわかったし、鉈もあった。製鉄技術はあるようだから、弥生時代以降くらいではあるだろう。
いや、そんな馬鹿な。
甲冑姿の人たちが馬で走っていた。甲冑があるなら中世ではあるだろう。あの集落は農村か何かで、昔ながらの生活をしているに違いない。
でも、そうだとしても…最初の村人が、最初の集落があの調子だと次の町へ行くのも怖い。小さな集落だからよかったけれど、大きな町に入った後だと逃げる手段がない。
そう思うと、動くのも面倒になる。
MPは眠れば戻る。MPがあれば食べ物にも飲み物にも困らない。誰にも会わなくても生きていくことはできる。
人のいるところに行けば、馬を走らせていた兵士のようなのもいるだろう。あの集落にいたようなガリガリのボロボロの人たちもいるかもしれない。それくらいなら、車で寝起きして過ごしているほうがマシだ。
もちろん、できるなら家が欲しいし畑でもあれば、新鮮なサラダも食べられて食事情はよくなる。
無理に人里にいくよりも、どこか辺鄙な場所で畑を作って生活してもいいかも…。
そうだ、異世界物の物語のように人のいない場所を探して家を自分で建てればいいじゃないか!
そのためには、のこぎりや金槌がないと造れない…。ナイフの一つもないのに、家を建てるなどまだまだ先の話だ。
ナイフか…。
アイテムリストを開くと、果物ナイフ(カバー付き)はリストにある。1000円くらいだったものが3,000MPになっているけど、買えなくはない。
買っておくか…今夜は、軽い物を食べることになるかもしれないけど、アイスなら在庫がある。今夜一晩くらいどうとでもなるだろう。
隆二は、岩陰に置いた車で仮眠を取り、食事をし、車を降りて軽い運動をして過ごした。
ある夜、目が冴えて車を降りると満点の星空が広がっていた。少し肌寒いので、隆二はTシャツの上に、真っ青ストライプのシャツを羽織った。
子供の頃に自然教室でしか見たことのないほどの星空だ。北海道の田舎育ちと言っても民家の明かりがあるため、ここまでの星は見えなかった。
模様は違う丸い月が浮かんでいた。