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ヒトエたちは、なんとなく感覚で時間を測り、火から下ろし蓋をした。それから薬缶を乗せた。リュウジさんが見ていて何も言わないのでいいのだろう。
「お湯が沸いたら、粥の鍋をもう一度火に乗せてそこにある茶色いバーを1本と塩を匙に1杯入れます。沸いたら葉を入れます。根菜類なら先に入れるとかそのあたりは皆さんもわかるでしょうからお任せします。」
「はい、この茶色いのはなんですか?」
「それは、スープ原液バーです。それを入れるとうまみが付きます。」
「うまみ?」
「はい、お肉食べると美味しいでしょう?そういったうま味です。」
お肉食べたらってそれは、お肉だもの美味しいのは当たりまえだ。
昨日は、卵入りの雑炊という高級なものを食べさせてくれた。さすがにそれは期待していないけど、今日も野菜の入った粥を食べられるようだ。しかも、お肉の美味しい味がするのなら楽しみだ。
野菜はここ数年、年に数回しか食べていない。芋は少しずつ食べていられたけど、それも今年は望めないようだと聞いていた。
この粥の材料の穀物は麦とは違うみたいだけど、食べると元気が出る。今まで数日働いて粥を1杯買える日々だったのに、職場で食べさせてもらえさらにお金までもらえる。
昨日はそのお金でカスタードバーと押し麦を買う事が出来たし、お塩までもらえた。
持ち帰って塩のサラサラ具合もそうだけど、入れてくれた袋の美しさにうっとりとしてしまった。
粥を作って子供に食べさせることができたのだ。
「お湯を下ろして鍋をかけてください。」
言われて見てみると、ぐつぐつと沸き上がっていた。
「すいません。沸きすぎですね。」
「いえ、そのくらい沸いた方が安全です。ちょうどいいですよ。」
リュウジさんはニコニコとしていて、本気で言っているようだ。
燃料を無駄にするなと怒るつもりはないらしい。
粥の入った鍋を火に掛け、バーと塩を入れる。すぐに沸いてきたので葉を入れてかき混ぜた。
「もういいでしょう。それでは、みなさんに声をかけてください。作業中であれば、一つのテーブルで食べましょう。」
「はい」
「みなさんの10人分しかないので、分け合って食べてください。俺は席を外すので休憩を取るように。」
そういうと、リュウジさんは出てしまった。
粥は…雑炊というらしい。少し黄金色のスープになっていて、米も葉も美味しい。
「ヒトエもユリナも料理が上手なんだね」
「これは材料がいいからだよ」
「売り物みたいな味だね」
「うん、本当にそうだね。」
「昨日の卵粥には腰が抜けたけど、今日もこんなに食べさせてくれるなんて…本当に毎日食べさせてくれるつもりみたいだね。」
「そうだねぇ…これもって帰りたいね。」
「そうする?」
「でも…」
「それは止めた方がいいと思う。リュウジさんは仕事をできるようにって食事を出してくれているから、持ち帰るのはお給金で買った物だけにしよう。」
「そうだよ、食べきれないなら減らしてもいいねって言われても困る。」
「そうだね。私たちはここでしっかり食べて、家にある食材で子供たちに食べさせられればいいよね。」
「うん、そうだよ。こんなにお給金もらえるんだから、買う事は出来る。昨日だって押し麦をあんなに沢山売ってくれたじゃない。」
「そうだよね。カスタードバーだって」
「そうそう。カスタードバーなんてギルドでも数量限定の品だよ。神薬のあとで食べる物だけど、カスタードバーを食べるだけでもかなり元気になるっていうし」
「うん、昨日…夫に食べさせたんだ。」
「どうだった?」
「もう数日の命だと思っていたのに、今朝は顔色もよくなって起き上がったんだよ。」
「ええ!!!」
「やっぱりそうなの?」
「歩くまではいけないけど、ベッドの上で体を起こして湯冷ましを飲めたんだ。夕べは子供たちに麦粥を食べさせられたし、本当によかったよ。あれも神薬だとしか思えないよ。」
「うちも同じだよ」
昼食を食べながら、昨日の給金で買った食材の話で盛り上がった。
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