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なんというか…見たことのないことばかりする雇い主だ。
ヒトエとしては見ていて気恥ずかしいのだけど、本人は何も気にしていないらしい。
塩を受け取った女性からすると、リュウジさんは息子ぐらいだろうに、リュウジさんがあまりにも丁寧に接するから、きっと吟遊詩人の歌のお姫様になった気分なのかもしれない。
翌日、出勤するとリュウジさんがいた。
「ヒトエさんとユリナさんは、ロッカーに荷物を入れたら着替えをしてください。Tシャツとズボンが釣り下がっていますが、そこにズボンと同じ色のシャツが2枚ありますのでそちらに着替えてください。それから昨日脱いだ服を入れた籠を持ってください。それと髪はまとめてください。タオルはしなくていいです。」
「はい」
「こちら、洗濯場の小屋のカギです。お役目が変わる時に次の人へ渡してください。」
「はい、すぐに着替えてきます。」
かごを背負って歩くこと5分、近くの川に来た。
川の近くに小屋が立っていた。川には、石積みの水槽が2か所で来ている。
「小屋の中に盥と樽があるので取り出します。盥のここに栓をしてあるかよく見てください。」
「はい」
「栓がされていたら、ここにあるこれを一度押してください。」
見慣れないものの頭を押すと透明な物が出てきた。
「では、川の近くへ行きましょう。最初にこのバケツに1杯分の水を汲んできてください。」
リュウジさんが川のところまで行くと、すのこの敷いてある場所へ盥を置いた。
ユリナが汲んできてくれると、それを受け取ったリュウジさんは盥へと入れた。すると泡が立っている。
「これで洗濯液の出来上がりです。ここに洗濯物を入れてください。一応ほこりをたたいて、ズボンはポケットの中も見てください。」
「そうしてからここに白い洗濯物を入れて足で踏みます。ヒトエさんお願いします。」
「はい。よっと…」
ヒトエは呼ばれたので、慌てて盥へ乗った。足で踏むと水が少し濁った。
「もういいでしょう。そうしたら背負いかごに入れてください。水は絞ってくださいね。籠に入れたら、水槽の川下側へ入れてください。次、青い服を入れたらユリナさんもやってみましょう。」
籠のまま水槽に入れることで、川の流れで注ぐらしい。ユリナが踏み終えて籠へ入れ始めると、籠を川上の水槽へ移すように指示を受けた。
川の水流で濯いだ洗濯機は、そのかごのまま樽へ入れた。
それから濯いでいる間に、使った盥をすすいで小屋によりかけて乾かす。
「樽にかごごといれて蓋をして、ここを閉めたらここを回してください。」
「はい、…結構重い…」
「回し始めると楽に回せます。ここの穴から水が出てくるので出てこなくなったら脱水できました。さきほどと逆の手順で開けてください。」
ヒトエは言われたとおりに蓋を開けて、中のかごを持ち上げるとあまりにも軽くて驚く。
「ええっと、乾いたみたいに軽いです。」
「これで乾くのも楽々ですよ。」
「あの先ほどの液は何ですか?」
「あれは洗濯洗剤です。絶対に口に入れないでください。目に入っても駄目です。すぐに洗ってください。」
「はい、わかりました。」
「洗剤ってなんですか?」
「石鹸です。」
「石鹸って貴族様が体を洗う時に使うものですね。」
「体を洗うのはまた別のものですね。手洗い場にある白いのが石鹸です。」
ユリナが「あれが」といったものの残念そうに下を向いた。そのまま籠を取りに向かった。
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