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ある日、ヒトエは商業ギルドの募集を見て応募した。
ギルド員からの面接を受け、指定された家へ向かうとそこには下町の自分と似たような女性たちが集まっていた。
ギルドの仕事のほとんどは日雇いで小銀貨1枚か2枚の仕事だった。
最近は毎日粥売りが出ているといっても、並ばなければ買えないので仕事をすると粥を買えず、お金がなければ粥を買えない。できるだけ1日置きに働いて、もう一日は粥を買うようにしたかったが、そう思い通りにはならない。1日のお稼ぎが小銀貨1枚の時はあきらめるしかなかった。
そんな時に見つけたのだ。毎日出勤できることが条件だったが飛びついた。
稼ぎが良ければ、人に頼んで粥を買ってきてもらうこともできるだろうと考えたのだ。
雇い主は、見たことのない黒目、黒髪の男だった。髪は短く切っていた。
「私は、リュウジといいます。これはシアンと言って普段皆さんと接することになります。」
リュウジさんもシアンさんも、見たことのないほど織の細かい服を着ていた。しかもその服には色がついていた。青い服は見たことがなく、ズボンは黒だった。色がついた服は非常に高価であり、大店の店主や貴族でなくては手が出ないものだ。
雇い主は、自分よりも若く相当な立場にある人のようだ。
「今からゴムを配るので、それで髪が落ちないように結わえてください。やって見せるので、このようにしてください。」
そういって、15才のユリナを椅子に座らせると、雇い主は美しい仕草でユリナの髪に櫛を通した。
これは道具の使い方を教えるためだとわかっていても、男が女の髪を梳くということに見ていて気恥ずかしくなってくる。男が女の髪に触れるのは愛情表現であり、いかがわしい景色に困ってしまう。ユリナは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「みなさん、ちゃんとみてください。髪を梳いたらこのように集めて縛ります。」
リュウジさんは櫛で梳かしながら髪を集めると、手首に巻いたゴムを根元に入れてクロスさせて髪を通した。ゴムというものはかなり伸びるらしく、まだ長さがあった。
「ここで、2回巻きつけたら髪を折りたたんで小さくし残りのゴムを巻き付けます。痛いところはない?」
「大丈夫…」
リュウジさんの実演が終わるとユリナは顔を赤らめて戻ってきた。
シアンさんが咳払いをする。
「それでは皆さん、今のリュウジさんの真似をして髪を結わえてください。自分で難しいときには他の人に手伝ってもらいましょう。ユリナさんは、見ていないので他の方のやり方を見て覚えましょう。」
「では、櫛を用意しました。一人1個ずつです。家へ持ち帰ったりしないように」
一瞬のどよめきがあがったけれど、「持ち帰りしない」という言葉で、「そりゃあそうだよね」と笑い声が上がった。
櫛を送るというのは、プロポーズの意味があった。
ここに集められたのが、それなりに見目のよい女たちであり、ギルドから仕事の前の日には水浴びをしてくるようにと言われていたので、もしかしてそういう意味なのかもと少し思っていたのだ。
靴を脱いで室内に入って着替えをするように言われ、ロッカーとやらを開けると、真っ白なシャツと鮮やかな青いズボンが入っていた。
「ええ!」
それぞれが小さく声を上げた。見たことのない生地は、リュウジさんやシアンさんが着ていたものと同じ目が詰まっている上等なものでとてもなめらかだった。
その服に着替えて振り向くと、皆で同じ服を着ていた。
「こんなにいい服初めて着たよ。それにこれ…髪を縛ったのと同じものが入っているのかな?腰紐がないのに落ちたりしないよ。」
「ほんとうだねぇ」
「話していないで扉を開けよう。」
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