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少し長めです。
「屋台代が6日で20が6…場所代が6日で…」
コエは計算版を使い、コインを動かしてみるけれど、どうやっても足りない。
「コエさん、金曜日までの稼ぎのすべてが支払いで消えますが、土曜日に150枚稼げます。それで月曜日と火曜日の屋台代、場所代、野菜代を支払って120枚です。120枚ですからそれを支払っても30枚は残ります。」
「30枚も…」
「コエさん、考えてください。今まで食べる粥を手に入れるために働いてきましたよね。」
「うん、もちろんだよ。」
「今はどうですか?ご自分の持ち帰る粥を残しているでしょう?毎日食べて今週の最後には30枚の小銀貨が残るはずです。」
「今週だけで30枚!」
「そうです。大きな声では言えませんが、大店で働いている通いの店員の2週間分の稼ぎです。」
「大店の店員でも2週間分…」
「そうです。それをコエさんは今週手にできるのです。」
「それはすごい…!」
「そうです。すごいことです。」
「来週からは、ギルドに口座を作ってお金を預けたほうが安全かもしれません。そんな大金をロッカーに入れておくのはおすすめできません。」
「なんで?」
「盗難されてもどうにもできないからです。ロッカーは場所を貸しているだけですからね。」
「そうだった…」
「注文は受け付けます。お金は前払い金という形でお預かりしますので、その木の分は金曜日にお支払いください。これで手元のお金はなくなります。土曜日の稼ぎは、翌週のお野菜代は取っておくようにしましょう。万が一もありますからね。」
「はい」
「それと、水曜日から土曜日までの場所代と屋台代、野菜代で240枚必要になります。火曜日に稼いだ分でお支払いください。
「はい、リリアさんありがとう。」
「コエさん、応援しています。」
コエは、気にしていなかったが計算では最低限の150枚ずつの売り上げを見込んでいた。そのため実際には金曜日の時点で10数枚の小銀貨が残り、さらに土曜日にはリリアと相談して6日分の野菜代を前払いした。
その結果、小銀貨58をコエは手にすることができた。
大店の通いは2週間で30枚なら、ほぼ1か月分を稼いだことになる。しかも、大店での勤め人は住み込みが多く、朝から晩まで働くのが当たり前だった。通いというのは優秀な人材となる。
コエのように計算ができず、字を書けない者が稼ぎ出す金額としてはかなり恵まれていた。
コエは、土曜日は娘の服を買って帰った。
日々の売り上げで少しずつ前の週に支払える金額が増えていく。
それでも自転車操業には変わりなかった。
数週間後、屋台代と場所代を月曜日までの支払いにし、米の購入量を1袋増やした。週に3日だけ粥を2倍売ったのだ。すると手元に残る金額が増えたので、翌週は2袋増やした。
そこでやっとコエは気が付いた。
最初に教えてくれたのは、最低限売らなければいけない量であり、採算が取れるラインだった。馴れて売る量が増えれば、稼げるようになる。それでも、最低ラインを知らないと赤字で身を滅ぼしてしまう。だから、リュウジさんはあの量で教えてくれたのだ。
改めてリュウジさんの思いやりに気が付いた。
本当に優しくて深く考えてくれている。
1日で米1袋分の粥を売り、200杯のスープを売る。それができるようになると、貯金もできるようになった。
毎日の食事も、粥ができてすぐに味見として1杯ずつ娘と食べる。
仕事に慣れてくると、娘を連れて屋台をするようになっていたのだ。
娘は水汲みの時に漏斗という道具を抑えていてくれる。店が開くと客が台に置いた金を、商品を渡すと同時に金箱へ入れる役目をしてくれた。それ以外の時間は、椅子に座って待っていることも多いが、気が向いたら手伝ってくれるのだ。
仕事を終えるのは自分たちの分をとれば終わるくらいに減ったころだ。
ざっくりと片付けをしてギルドまで屋台を引いていく。ギルドについたら、鍋の粥をカップに入れ、スープを一度粥の入っていた鍋に移して、米粒をすべてスープに落とし、それをカップの粥にかけた。
雑炊という料理になるらしい。それを持ち帰り用の籠へいれると、それとは別に残った材料はロッカーへ仕舞う。金箱をリリアさんに預けギルドの口座へと入れる。
それから屋台の片づけを終えると、家に帰って雑炊を食べて眠る。
そんな安定した日常を過ごせるようになっていった。
他の二人もタイミングは違うものの、似たような動きをして販売量を増やしていった。
3店舗でそれぞれ200杯の粥とスープが安定的に売られるようになると、町の様子は変わっていった。
単純に3倍の粥やスープが売られていて、それを買い求める客はいる。それでもまだ全員に行き渡るほどではなかった。
隆二がスライム塩を使うようにしたことで、客たちが持ち帰った粥も傷まないうちに客の腹をみたすことが出来た。ドライスライムのため栄養価5倍にしかならないが、それでも5倍になることで、彼らの命を繋ぐことは出来た。
客たちによっては1杯の粥をスプーン数口ずつ分け合って食べる人も少なくなかった。そんな状態では栄養価5倍の効果は最大限に発揮されたのだ。
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