17 最初の村
昼に走り始めてスタータンが見えたのは1時間ほど経ったころだった。
隆二は、木の脇に車を止めた。
「リリー、クッキーいくつある?」
『クッキーは、チョコチップ⑤とバター⑥、バニラ③だにゃん♪』
「試しだから、シンプルな方がいいかな?」
「リリー、バタークッキー5箱を目の前に出して」
『かしこまりにゃん♪』
日々交換していた物の中からクッキー6枚入りを5箱ほどリュックサックへと移した。
マイスマホや私物のほとんどをインベントリへ収納し、車も収納した。
徒歩の旅商人を装うつもりなのだ。
歩いて集落に近づいていく。ここまでの道がそうであった以上に周囲は茶色の荒れ地が広がっていた。
ここに住む人たちは、何をして生活しているのだろうか?
時折緑が少し見える。道沿いにはあばら家が立ち並んでいた。その奥にレンガ造りの家が1軒だけあるようだ。
う~ん…金はなさそうだ。
交換できる物がないなら、次の町へ行けばいいだろうけど…。
人の姿が見えたので、隆二はリュックを前に抱えて商品を見せるように声をかけた。
「こんにちは、クッキーを買いませんか?」
「お前なんだ?」
やっと聞き取れるくらいの掠れた弱い声だった。
目の前の人は、生成りの服を着て足元は裸足だ。髪はボサボサで、薄汚れている。声をかけていい相手ではなかった。とても買ってくれるようには見えない。そう思っても声をかけてしまったので今更だ。隆二は営業スマイルを張り付かせた。
「旅商人です。手持ちはこのクッキーだけですが、買いませんか?」
「クッキーってなんだ?」
「お菓子です。」
「菓子?」
「甘い食べ物です。」
「なんだと!?」
周囲の家から人が出てきた。
誰もが、ボロボロの服をまといガリガリにやせ細っていた。目がギョロリとしていて血走っている。そして、その手には鍬や鉈が握られていた。
うわっ…まずい…この集落全体でこんな状況なら買えるはずがない。
隆二は逃げ出そうとしたが、鍬や鉈を持っている人達に腰が抜けそうだった。
「それを置いていけ。置いていくなら命は取らねえ」
「わっ分かった…。」
隆二は、クッキーの箱を土の上に置いた。それから後退った。
「まて、持っているものを置いていけ」
「あの、このリュックだけはだめです。」
「入れ物はいらん。食べ物は全部置いていけ」
「わかりました。」
隆二は、コクコクと頷いた。リュックの口を開けて真っ逆さまにひっくり返した。クッキーの箱を全て道へ落した。
もう出ないよとアピールするためにフリフリしていると、村人が顎を上げたので「それじゃ」というと全速力で走って逃げた。