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家に入るなり土下座したシドに隆二は驚きつつも、腰を下ろして手を差し出した。
家の中とはいえ、土間なのだ。そんなところに座り込むものではない。
「はい、お教えします。ただ働きになりますがいいですか?」
「もちろんだ。」
「それと、うちの仕事は基本朝早くと夕方が多いです。昼間は土づくりになりますが、それでもかまいませんか?」
「もちろんだ。なんだってやる。」
「できるならですが…ここで覚えたことを家で実践してほしいので…ここで働くのは、夜明けから10時頃まで、その後は夕方の15時から2時間くらい。その間は、ご自分の畑で作業するのはどうでしょうか?」
「いいのか?家の畑もできるなら助かるが、それで大事な作業を見落としたりしたら…」
「ご安心ください。その間は、俺たちは別の仕事をしています。昼間は商売があるので、忙しいのですよ。」
「なるほど、それならぜひそうさせてほしい。」
「今日のところは、ヒロと水やりをしてそれが終わったら、シドさんから頂いた川沿いの区画を耕してもらおうかな?畑を耕して肥料をしなければいい土ができませんので…。」
「土を作る?」
「はい、野菜の育つ土を作らないといけません。その作り方をヒロから教わってください。」
「わかった。助かる…。土を作るなんて考えてもいなかった…。」
シドは、隆二の手を握って感謝を伝えるとヒロと作業を始めてしまう。
「ヒロ、これをシドさんに渡して腰から下げるように言って、全部飲ませて」
「わかった。」
隆二や子供たちは、腰からペットボトルホルダーを下げている。ボトルの中身は塩の少し入った湯冷ましだ。
農作業中は汗をかくので必需品なのだ。ボトルホルダーは、スポーツドリンクについていた景品で景品付きの商品もリストに並んでいた。
今回、シドに渡すようにと用意したのはスポーツドリンクを倍に薄めたものだ。それでも濃いだろうけど…栄養失調気味に見える体には必要だろう。
隆二は家に戻ると、ヒイロも頭を下げた。
「今日は突然すまなかった。」
「驚いたけど、大丈夫です。近いうちに農業ギルドに声をかけようと思っていたので、丁度よかったです。」
「そうなのか?」
「はい、なので気にしないでください。それと相談があるのですが、いいですか?」
「ああ、もちろんだ。」
「あの蕪ですが、売る場合に何か手続きは必要ですか?」
「いや、いつも通りの屋台の届け出で大丈夫だが…売るのか?」
「はい、そのつもりで育てたので」
「どのくらいある?」
「蕪が150個と小松菜も150本くらいです。そのまま1個売りでいいですか?小松菜は5本くらいで纏め売りがいいですか?」
「どちらもそのまま1個売りでいいと思う。」
「ちなみにいくらぐらいがいいですか?今まではスープに入れて売るぐらいだったので、金額の目安が若菜らなくて…」
「これだけ大きい蕪なら小銀貨1枚でも売れそうだな。小松菜は1本銅貨2枚くらいかな?」
「なるほど…今朝の蕪の料理なら売れますかね?」
「ごめん、食べずに出てきてしまって…」
「少し待っていてください。」
隆二は、『箱』から昨夜のごはんの残りを取り出した。そこに蕪のごま油炒めを添える。
「これをどうぞ」
ヒイロは小皿に乗ったごはんと小松菜をみて、スプーンで食べ始めた。
「うまっこれは…うまい。この白いのは甘くてふわふわで噛み応えもあって…この蕪が塩っ辛くてよくあう。」
「よかった。俺も好きです。」
「この皿で売るなら売れそうだな。だが、来週からあの人たちに店を出させるのに、それはかわいそうでは?」
「それはそれです。」
「まあ、とにかく蕪や小松菜を売るのは了解した。屋台の出店許可は、その時に相談するように。」
「わかった。」
シアンもロティもいないので、仕事に出たのだろう。
しばらくの間、ヒロはシドの相手をしてもらったほうがよさそうだ。もちろん、俺もできるだけ教えるつもりだ。
シドは水やりの道具を見て、手押しポンプでの水やりを見て感心していたらしい。明日は、1番の畑のとうもろこしの受粉作業を始められそうなので、それをしてもらえばいいだろうか?それ以外は、畑作りをやってもらい、4番と5番も使えるようにしたい。それを覚えて帰って家で実践して畑を作ってくれたらと願ってしまう。
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