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「リリアさん、どうしました?」
「信じられません。こんなに青々とした畑なんて…しかも奥まで続いて見えます。」
「ええ、まあ3区画分は耕しましたので、育っています。川沿いはまだ手をかけていません。」
「リュウジさんは魔法使いですか?食品を生み出し、こうやって枯れた畑に緑を取り戻すなんて…」
「いや、これは誰でもできますよ。」
「できていたらこんなことになっていません。」
「いえ、できるはずです。特別なことはしていないので…」
「あのっ農業ギルドのマスターをお連れしてもいいでしょうか?ナナさんのお父さんなんです。父を通して、公式の場を設けますので…」
「それは構いません。もしやり方を知りたいなら教えますよ。」
「そんな!本当に!?ありがとうございます。すぐに家へ帰ります。」
「ちょっと待って、これお土産にどうぞ。」
「いいのですか?」
「ええ、お渡ししようと思って用意したものです。」
リリアさんは、礼を言うとかごを腕から下げ、さらにトレーも持って帰っていった。
5人で食事をし、食べ終わるころに玄関をドンドンと叩かれた。
「早いですね。」
「うん、はやい」
「今朝の今朝でヒイロさんが来たと思う。」
ヒロがそう言って玄関を開けると、ヒイロと見知らぬ男が入ってきた。
男の手には、先ほどリリアに渡した蕪が握られていた。
「これっこれを…これをっ…ゴホっゴホゴホ」
「隆二、勝手に連れてきてすまない。この人は、シドと言ってナナさんと赤子の父親だ。農業ギルドのマスターもやっていて、うちに来た時にこの蕪を見たものだから…」
「先ほどリリアさんに連れてきて構わないですよとお伝えしているので問題ありません。」
「挨拶が遅くなってすまない。子供たちや妻を助けてくれてありがとう。おかげで家族が飯まで食べていられて…」
ヒイロに紹介されたシドさんはハッとした顔でそう挨拶をしてくれた。
家族で飯?それは知らない。
ヒイロを見るとアチャーと言わんばかりに気まずそうだ。
朝食は4人分として大きな深皿2つに800㏄前後の粥や雑炊を入れて渡していた。彼らには多めだろう。近しい仲間の2家族で分けて食べていたのかもしれない。
「それはヒイロさんがしていることで、俺は何もしていません。」
「赤子のミルクも…その…とても助かった。妻は乳も出ずどうにもできなくて…」
「それはまあ、しっかりとお代もいただいているので…」
「ここ数年、どこの家も…赤子が育つことはなかった。だから、その…この奇跡をうちの娘に与えてくれて心から感謝している。」
まいったな…これいつまで続くんだ?
ヒイロに助けを求めた。視線を合わせると、ヒイロが声を出した。
「リュウジさん、それでこの蕪は本当にここで採れた物なのか?」
「そうですよ。裏口からどうぞ」
2人を連れて居間を突っ切りそのまま裏口を出る。1畳の畑のトウモロコシは受粉作業も過ぎて実が膨らみ始めていた。トマトも数個は赤く色づき始めていて、明日には食べごろになるだろう。蕪はどうやって販売するかを相談して、売る当日に収穫の予定だったので丁度よい。
そう思って2人を見るけれど、呆然と立ち尽くしていて、瞬きすらしていない。
声を出しただけリリアさんの方が冷静に見えてしまう。
「俺は、夢でも見ているのか?」
二人ともそう言うと、ふらふらと畑に入っていく。
小松菜や蕪の畑に入って育ち具合を見てしゃがみ込み泣き出してしまった。
大人の男が2人、大泣きしているのはどうしていいのか分からなくて困る。
しばらく見ているとヒロが二人を立ち合がらせ、畑の案内を始めた。
俺は家の中へ戻ると、ロティとシアンが片付けをしてくれていた。
「どうやって売るか相談するつもりだったが…あんなに泣かれるとは驚いた。」
「そりゃあそうだよ。リュウジさんは食べ物を持っているから気にしないだろうけど…」
「うん、リュウジさんには畑に作物が実っているは当たり前だろうけど、この町の住民には当たり前ではないからね。」
「そこがおかしいと思うよ。実際実ったのだし…」
「そうだけど…」
「そうですが、これはリュウジさんが居たからで…」
「そんなことはないよ。手順を守っていればある程度はできる。もちろん大雨や干ばつでどうにもできないことはあるけど…」
「そうじゃないから、農業ギルドのギルマスが来たのでは?」
「ね~、そうだよね~リュウジさんは自覚がないから」
しばらくすると、ヒロがヒイロとシドを連れて家の中へ戻ってきた。
「リュウジさん、俺を弟子にしてくれ。リュウジさんのやり方を教えてほしい。」
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