149
隆二は目まぐるしく動いている間に、気が付けば転移して3か月が経っていた。
ロロナはふっくらと幼子らしい体形になりかわいくなっていた。
ヒロとシアンは急に背が伸び始めていて、少年っぽくなってきていた。
ロティは少年のような体格だったのが、少し肩幅が出てきていた。
ロバの腹が膨らみ、あとひと月くらいで生まれるだろうと期待していた。
兎は、慣れてきたのか最近は手で差し出した葉をむしゃむしゃと食べるようになっていた。
今朝、今週分の商品をヒイロへ売ったのだが、その時にジッパー袋と一緒に空のペットボトルを返してきた。
「これは、返さなくてもいいよ。」
「何を言っている。こっちの袋が特別製で回収するのに、この水筒がいらないはずがないだろう!」
「そんなことは…これ、便利なんだよ?」
「それはわかる。だからこそ受け取れない。」
「わかったよ…」
「そうだ、今度ギルドへ顔を出してほしい。」
「ギルドへ?」
「粥とスープの売り上げも相当溜まってきている。一度も引き出していないだろう?」
「そうだった。金は足りているからね」
「それにだ。売り子たちにもひと月くらいは顔を見せていないだろう?たまには様子を見たほうがいい。」
「何か気になることが?」
「いや、彼女たちは頑張っているよ。売上も十分にある。」
「わかりました。近いうちに様子を見に行きます。」
数日後、販売小屋を見に行くと、慌ただしく粥やスープを売っていた。途中で、列を作らせている警備に声をかけると、警備は列を途中で切り後ろに並んでいる人たちを解散させた。
彼女たちは、最後に並んでいる人たちに残りの数を告げ、1人1杯ずつで売り切ると片づけを始めた。スープ鍋に薬缶の湯を入れ、鍋肌を撫でてからその湯を粥の鍋に移し、5つのカップに分けて飲んでいるようだ。
これくらいは役得の範囲だろう。
売上を見る限り、数量分を売り切っているので問題はない。だが、もし今後意図的に残すようになったら困るので釘はさしておくほうがいい。
「いつもありがとう。今日も盛況でしたね。」
女性たちと警備の動きがピタッと止まり、ゆっくりと振り向いてきた。
うん、漫画見たいな動きって実際にあるんだな。
「あの…これは…」
「わかっています。鍋肌を撫でた湯を飲むのは構いません。意図的に残しているなら問題がありますが、そんなことはしないと信じていますからね。」
「はい、ありがとうございます。」
隆二は、女性たちから離れると商業ギルドまでを歩いた。
屋台や露店には相変わらず食品は置いていない。
粥やスープは連日400杯ずつ以上が完売となっている。
露天や広場の片隅で、客たちが粥とスープを分け合って食べている姿も見えた。
この町に来た当初のような骨と皮の人は少なくなっていたが、手足が細すぎることに変わりはない。
あと1週間後には、小松菜や蕪の販売もできるようになる。
その時を目途に、販売員との関係も変えていこうと思い立った。
「リュウジさん、お久しぶりです。」
「シュリーさん、おひさしぶりです。」
「ギルマスが、お待ちしていますので、2階へご案内します。」
商業ギルドに入ると、サブマスターのシュリーさんが出迎えてくれた。職員たちが次々に挨拶をしてくれる。以前使っていたカウンターで、今朝渡したデカビタミンが売られていたのか片付けをしていた。
「デカビタミンはもう売り切れですか?」
「はい、おかげさまで…限定24人と言っているのに、人々が押しかけて来まして大変な騒ぎでした。」
「高いのによく買うな…」
「効果があるとはっきりしている薬は少ないです。しかも枯れ死病の特効薬はありません。そんな中での販売ですから…」
「それって、効果がなかったら商業ギルドの面目丸つぶれじゃないですか?」
「そうですね。そんなことはあり得ないと確信しているので問題ありません。」
「わからないですよ?」
ギルマスの部屋の前で、シュリーさんは立ち止まるとノックをした。
ヒイロが出迎えてくれて勧められた椅子に座る。
「よく来てくれた。さっきまで薬を求めた客が大騒ぎだったぞ。」
「あれは薬ではありません。」
「そうだった。あれは食べ物だからな。薬じゃない。」
ギルマスがペットボトル2本を目の前に置いた。
読んでくださりありがとうございます。
評価をいただけると嬉しいです。