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いつもより長くなってしまいました。
隆二は、買ってきた檻を手に倉庫のドアをそっと開けた。
目の端で動くものがある。
「ちょっ、ごめん!!」
隆二が、慌ててドアを閉めた。
「え?何?」
「どうやら、角兎が籠から逃げ出しているみたいだ。」
「ええ?角兎ですか?暗闇で襲われたらまずいです。」
ロティと二人で倉庫に入ったのだが、真っ暗でよく見えない。
角兎を捕まえるしかないのだが、今あるのは育成用のゲージで捕獲用の罠ではない。
隆二は、インベントリからペンライトを取り出した。
突然の明かりにロティは驚いた。白っぽい光など見たことのない物なのだ。隆二は、檻を置くと中に水と餌を置いた。
隆二たちは息を殺して、兎が檻に入るのを待つ。入口は開けてあるが、糸で釣り上げているので、よく見ていなくてはならない。
一応、捕まえた時と同じタイプの仕掛け罠もインベントリから1つだけ出したが、できれば檻に入ってほしいところだ。
しばらくすると、1羽が仕掛け罠に入り残り2羽は檻に入った。仕掛けに入った兎は、檻の入り口と仕掛け罠の出口を合わせることで、自然に移動するのを待ち、入口を閉めた。
「はぁ驚いた。本当に角兎だ。」
「ああ、やっと捕まえた。」
「なんでこんなことに?」
「仕掛けで捕まえてきたんだが…どうやって逃げたんだ?」
「仕掛けってこれ?」
ロティが持ち上げたのは、竹製の仕掛けだったものだ。数か所が噛み千切られている。
「壊されている!」
「竹は角兎の好物だよ。壊されるのは当然。」
「そうなのか、なら早く檻へ移して正解だったな。」
「そうだね。それにしても、よくこんなに捕まえてきたね。今日の夕食?」
「今は食べないぞ。増やすつもりだ。」
「増やすって…青スライムみたいに?」
「ああ、そうだ。繁殖して増やせばいつでも食べられるだろう?」
「そりゃあそうだけど…捕まえたら即食べる物で、増やしてから食べようなんて考えるのはリュウジさんくらいだよ。」
「そうか?今は余裕がないからすぐにたべているだろうが、繁殖が上手くいけば、週に1度とかもっと多い回数で肉を手にできるようになるよ。」
「リュウジさんが言うならそうだろうけど、想像ができないかな。」
「すぐにわかるさ。それより見たからには、これの世話も手伝ってくれ。子供たちにはさすがに教えられない。」
「手伝うよ。だけど…この倉庫には子供たちは立ち入り禁止だね。危険すぎる…」
「そうだね。」
「そうなると、あの子たちが気づかないタイミングを考えないと…」
「朝早くか昼間帰ってきてから頼みたいかな?」
「わかったよ。それなら、帰ってきたら餌と水の補充はする。」
「助かる。もし雌の腹が膨れてきたら教えてくれ。やることがある。」
「わかった。その時は声をかけるよ。それにしてもその光はいいね。」
「ああ、これはあまり人には見せたくないものだが…」
「わかるよ。」
「まぁ…ここは真っ暗すぎるから、上の窓を開けておくだけではきついな…。明り取りの窓を低い位置につけようか。」
「その方が助かる。」
「それは、それとしてこれはロティさんが使っていい。明るくならなくなったら教えてくれ。交換する。」
「いいの?リュウジさんが困るのでは?」
「大丈夫、また用意する。」
「そう?なら遠慮なく。」
「ここを横にずらすと点灯して、反対に動かすと消える。」
「わかった。本当に明るくなった!すごいね。」
後日、レインコートの白色を張り付けたランプシェードのようなものを作った。
下に台座を用意して、そこに立てることで乳白色のカバーが光を拡散する。非常事態に少し牛乳を入れた水のペットボトルを乗せると周囲が明るくなるのと同じ効果だ。
角兎の檻の中には藁を敷いているが、その下の網のさらに下にはトレーを入れている。檻自体には、檻の1/3のところに上げ下げ可能な仕切りもついている。この檻は3個ほど注文してあり。小さな物も10個ほど注文してある。
いつ捕まえてもいいように注文はしていても、職人たちに体力がないので思ったようには出来上がってこない。
彼らは、代金を金ではなく食べ物がいいと言ってきたので、今回の檻に対してはカスタードバーを10本渡してきた。
あれを食べれば、少しは力も沸いてくるはずだ。
お湯をかけてクリームに戻す方法を見せると、目を輝かせていたので食べるはずだ。
角兎の餌には、藁と雑穀を与えていた。
雑穀はアイテムリストにある鳥の餌である雑穀だ。
兎はもこもこでかわいい。手触りは最高だ。
可愛いとは思うけれど、今は肉を手に入れる手段がない。
かわいそうだけど、家畜として増やしていこう。
角兎の性質が日本の兎と同じなら、年に3回ほどの繁殖はできるだろう。
雌1羽が一度に10羽を産めば年間30羽だ。6割育てば1羽から18羽ができる。今は雌が2羽だから1年後には36羽にできるかもしれないのだ。
そう考えると、数年後には肉を手に入れるのが、今よりは容易になるのではないかと希望を持てた。
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