14 森の獣①
ガサリっ。
隆二は、物音で目が覚めた。
草むらの中に泊めた車の中から周囲を見回した。
黒い大きなものが後ろから近づいてくる。
隆二は、息を殺して身を屈めていると黒い大きなものが車のすぐ近くを通り過ぎ、泉へと向かっていく。
離れたのを確信してから、顔を上げそれを探す。広場に出た黒いものが、月明かりに照らされて大きな熊のようなものだと分かった。
もし、あれが今来た道を戻ってきたら…気が付かれるのではないか?気が付かれたら、こんなミニカーなんてひとたまりもなく潰されてしまうのでは?
やべぇ…怖い…。
スマホ…いや…何か…。
何も思いつかず、毛布をかぶった。茶色の毛布は、きっと闇に溶けて存在を消してくれるはず…隆二は、徐々に足音が近づき通り過ぎてもしばらくの間は毛布をかぶったまま震えていた。
熊は苦手だ。
北海道の田舎育ちの隆二にとって、羆の凶暴さは幼い頃から聞かされていた。熊がちょっとひっかいただけで、人間の頭など簡単に粉々になる。助かったところで、ほとんどの人は二度と人前には出てこない。
それほどにひどい状態になるのだ。目が潰され鼻がなくなり…恐ろしい姿になった人が何人もいた。
あれが熊ではないとしても、あの体格のモノに襲われたら無事では済まない。命がなくなるならまだしも中途半端に生き残ってしまったら…この世界ではどうしていいのか途方に暮れてしまう。
「はぁ…もういいかな…」
毛布から出ると、周囲には闇が広がっているだけだった。
それにほっとして、頭から毛布を被りまた眠りについた。
隆二は、目覚めるとアイテムリストを開いた。
やはり商品名の横に価格MPが並んでいる。
鰻弁当を食べたのは夢ではなかった。
隆二は、『評価』を見ようと思った。スマートウォッチから見ることはできないため、マイスマホを手にした。
そういえば…これ入るのだろうか?
もし、入るのならリスクを一つ減らせる。もっとも仕事用のスマホを失くすと同時になくしてしまうリスクは残る。
試してみるか。
スマートウォッチから『インベントリ』を開いた。
「リリー、マイスマホを収納して」
『かしこまりにゃん♪』
インベントリに入った。これで荷物を一つ減らせる。
だが、フォルダが先に並びその後ろに入ったようで探すのに時間がかかる。
これでは、とっさに見たいときに困るか…。
いや、フォルダが先に並ぶならスマホ用のフォルダを作るか?固定できれば尚いいだろう。空になってもフォルダなら位置が変わらない。
「リリー、『スマホ』という名前のフォルダを作って」
『かしこまりにゃん♪』
「マイスマホを、『スマホ』フォルダに入れて」
『かしこまりにゃん♪』
「リリー、『スマホ』フォルダを一番先頭に固定できるか?」
『かしこまりにゃん♪』
スマホの『インベントリ』を開くと、『スマホ』フォルダがピン留めされていた。
これで安泰だ。だが、まだ置きっぱなしリスクはあるか…。
スマホの機能に連携か離れると警告音というのはないだろうか?
マイスマホを取り出し、スマホと並べた。
「リリーに聞いてもダメだろうな…」
『なにかにゃ?』
「リリー、マイスマホを置き忘れてインベントリにも入っていない時に警告音ってならせないのか?」
『インベントリのこと以外はわからないにゃ。スマホに聞くといいにゃん♪』
「ありがと」
インベントリを閉じた。
スマホを起動させた。
「システム、教えてくれ。」
『はい主、何でしょう?』
主で登録しますと答えたあの硬質な声が返ってきた。
「マイスマホがスマホからインベントリに入っておらず、距離が離れた時に警告音を発することはできるか?」
『しばらくお待ちください。』
スマホは検索中に切り替わった。
『お待たせしました。マイスマホと連携することで5m離れると警告音が主にのみ発せられる機能があります。これにはインベントリ内は対象外です。』
「おぉ、いいじゃないか。連携しよう。」
『連携機能解放には、5,000MPを要します。主のMP上限は5,000のため推奨しません。MP0は死亡します。』