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隆二は、このところスライムと向き合う時間が増えていた。
スライムの透明と青は食用できる。
青は、干したドライでも生でもドロップを作れる。ドライで作ったドロップでも4か月程度の保存期間らしい。
透明なら半年らしいが、4か月保存可能ならかなり食糧事情は変わるだろう。
青であれば5日で2つに分裂するので、短期間に増やせる。今現在でも10匹になっていて、それが毎日2匹増えている。毎日角切りにしてから10等分にして乾かしている。それは1塊がドロップ100個分とわかりやすくするためだった。水に浸けて膨らむと角切りに戻るので、溶かしやすい。
青スライムそのものは、水のみで育っているので栄養素の含有は期待できそうもない。そう言ってしまうとあれは何でできているのかという疑問は浮かぶが、そこまでの情報はインベントリでは表示しない。
現状、食糧になるものは保管が必要ないほどに不足している。
接する人が増えるとどうしてもその周囲の人までは助けたくなってしまう。個人でどうにか出来るものではないと理解しているのに、それでもせめて手の届く範囲はと欲張った気持ちが沸き上がる。
俺にできること…強引に高カロリー食を作ってみてはどうだろうか?それをお湯で溶かして飲んでもらう。
砂糖は薬になるほどの物らしいので、油はどうだろうか?油の取りすぎは下痢を起こすので、乳化させるか何かをしてみてはどうか?
そうだ、例えば…シチューに油を入れて固めた物をお湯で溶かしたら?
卵黄に油を加えてマヨネーズのような物を作りドロップより柔らかく固めたら?…例えばグミくらいに固めたらそれは栄養補助食品にはなるだろうか?
それとも…他に何か適当な物はないだろうか?
とりあえず…明日から販売するスープに入れる野菜は油で炒めたものを入れることにしよう。少し油が浮くぐらいでも、油が不足している人たちには美味しく感じられるはずだ。
だけどやはり料理知識が薄いと考え着く物も少ない。
何か料理本はないだろうか?
隆二は、自室に戻るとアイテムリストを開いて探してみる。
「これだ!」
思わずつぶやいた隆二が見つけたのは「キャベツクラブ」という主婦向けの雑誌だ。お客様に毎月2回購入している方がいた。配達した記憶はある。料理の絵が書いていたのも覚えていた。それを思い出せたおかげで選ぶことができていた。
節約メインの簡単料理本で、簡単料理しかしてこなかった隆二でもなんとなく理解できる。
キャベツクラブの記事に「カスタードクリームを丸ごと卵でつくっちゃおう」というものを見つけた。どうやら普通のカスタードクリームは卵黄と卵・小麦粉・牛乳で作るが、これは卵白も入るらしい。
しかも、簡単に作れるよう電子レンジにかけるだけだという。
これは作ってみるしかない!
隆二は、自室のテーブルに材料を取り出し、深皿と竹箸2膳をとりだした。竹箸2膳は泡だて器の代わりだ。
卵1個を割り入れ竹箸4本でかき混ぜ、砂糖大匙3杯を入れてよく混ぜてから牛乳を200㏄加えて伸ばした。そこに小麦粉大匙1杯を入れてよくかき混ぜる。
小麦粉を混ぜてもただの液体だった。それほどどろどろでもない。
これが本当に固まるのか?
カスタードクリームは、あのプリンのような味の固いクリームのはずで、これがあれになる感じがしない。
だが、本には30秒電子レンジにかけて取り出して混ぜる。これを4回繰り返すと書いてある。クツっとならなければ5回目が必要だという。
隆二は、その通りの作業を始める。スキルでの電子レンジなので、混ぜてはレンジを繰り返し3回目でかなり重くなってきた。
すごいあの液体が固まってきた。だがまだクツっとならない。
4回目の電子レンジの最後に端のほうが持ち上がって沈んだ。
その時にクツっと音がして、これのことかと思う。
そこからよくかき混ぜる。
かなりもったりとした重めのクリームが出来上がっていた。
かき混ぜていた箸をなめると、甘くてカスタードの味がしていた。
これは間違いなくカスタードクリームだ。
だが、そのクリームは冷めると団子のように固くなってきた。
もう少し牛乳で伸ばそうか?
少しずつ追加し、100㏄ほど加えたところで冷めても食べやすい硬さのクリームができた。
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