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夕食を終えると、子供たちは眠りにつく。
シアンは、多少の物音では動じることなく眠れる子だ。
隆二は、2階の自室の窓辺に用意した椅子に座り月を見ていた。
サイドテーブルには缶ビールがあり、つまみにはナッツを用意している。
冷えたビールと塩の効いたナッツの味は、ここがどこだかわからなくさせる。地球にいたころのような錯覚をしてしまう。
昼間は忙しく作業をしているので、時々はこうやって振り返る時間も必要だった。酒を飲みながらなので、それが正しいかはわからない。
最近、ロティもいるので隆二の負担は減っていた。
粥とスープ、朝ごはんの支度はロティがやってくれている。
そのため、この時間帯の隆二の仕事は、水瓶と樽に井戸水を補充することだった。
井戸に滑車を付けたことで、ご近所からは一目置かれるようになっていた。
隆二は表向き、樽1本分の水を引き上げていくのだが、実際はインベントリにある樽への補充も行っているので、大量に使っていた。
この井戸の水量は豊富なようだ。量を汲み上げているが、地下水による沈下も起きていなさそうで現状は問題ない。
今日も厨房、台所、裏口の手前に樽を設置していく。
朝は気温が上がる前に畑の手入れをし、工作した水揚げ機で水やりをする。
水揚げ機は、手押しポンプ式だ。コメの袋を加工して作った水袋を30mの長さにつないでいる。ビニール袋なので、熱で圧着したのだ。ところどころに穴や破れがあるので、そこから水が流れ出る。どうしても近くは多め、遠い場所は少なくなるがそれは仕方がない。
ある程度の水やりを簡単にできる散水機ということでよいことにしていた。
この作業は子供たちが楽しみながらやってくれる。
子供たちは畑一つを4等分にして、ある程度散水できる場所でポンプを動かしていた。
そうすることで間隔が7mになりそれなりにその両サイドにほどほどに水がいきわたる。ビニールの水袋は置きっぱなしにしていた。手押しポンプだけを持ち歩くのだ。手押しポンプは竹筒に棒を差し込んで途中に取り付けた横口から水を押し出す仕組みだ、
家のある区画である1番の畑は毎日水やりをしているが、2番と3番は1日置きの交互にしていた。そして、最後にプランターや盥に植えた野菜に水をやる。これは水路にひしゃくを入れて汲んでくる。
ロティはギルドと広場に向かい、帰ってくるのは10時頃だ。
その時間になると、隆二は倉庫で研究をしていて、子供たちは柵の加工をしていた。
柵の作業はそろそろ終わるので、次は何をしてもらおうかと考えていた。
手押しポンプを改良して、井戸の水汲みもできるようにしたい。それと畑で持ち歩かなくていいように、各畑に設置したい。
水漏れ防止のためにシリコンもどきのカバーを作ることはできたけど、不十分なところはある。うまくやればプラスチックのように使えそうなのだが、型に最適な素材を見つけられずにいた。
隆二には、欲しいものはたくさんあった。それをどのように作り出すかが問題で、試行錯誤をしている理由だった。
今のところ畑は順調だ。まだ2週間だから4つ葉程度だが、このまま育ってくれそうだった。あと6週間もすれば蕪も小松菜も販売できるだろう。
午後はそのまま倉庫でスライムの研究をしているが、そろそろ森や各地へ出向いて畜産に向きそうな動物を捕まえて来たいと思う。
動物を捕まえたとして、餌が必要になる。
隆二であれば、草や雑穀であれば用意できるのでなんとかなるだろう。ただ、ロバや馬は別として、堂々とやるには時期早々だ。
食料がある程度安定した頃に知らせるのが最適だと思うが、どうだろうか?
それよりもスライムは?
あれはいくらでも増やせるけど、薬扱いだよな…食べても栄養とかないのか?日持ちさせる効果を発揮できるだけでも違うか?
条件を変えて養殖中だが、まだまだ時間はかかりそうだ。
「リュウジさん、粥を出してもらえますか?」
「ああ、ちょっと待って…」
ロティは粥を隆二に収納してもらうか、取り出してもらうかをし、スープと粥をギルドまで運ぶ。ロティの荷馬車には蓋つきの箱が載せており、ギルドへ到着すると昨日の鍋を回収し、報酬をアイスボックスに入れて預ける。
ギルドの警備と一緒に広場へ向かい、小屋の中に粥とスープを入れる。
かまどには弱い火を熾し、鍋を載せておく。この火はかなり弱く保温するのにも弱い。火をつけるのが面倒だろうとの気遣いだった。
ロティが小屋に鍵をした後は、商業ギルドへ寄ってから帰っていた。
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