132
「リュウジぃ…ロティさんなの~」
ロロナが、水路の向こう側から隆二を呼んだ。
隆二は、雑草抜きをやめると水路の水で手を洗った。このところ雨が続いていたので水路の水は増水している。ロロナには危ないから近づかないように言い含めていた。
隆二は水路を跨ぐとロロナを抱き上げた。
ロロナはしっかりと歩けるまで回復したが、まだまだ十分とは言えず家の中とすぐ裏にある1畳ほどの畑くらいまでが活動範囲だった。
ロティが他の町へ向かって2週間もたっておらず、1月ぐらいかかると言っていたはずだから、戻りが早い。何かトラブルがあったのだろうか?
家の脇を通り、玄関に向かった。
「ロティさん、お帰り」
「リュウジさん、ただいま。予定外に早く帰ってきてしまった。」
ロティの表情は少し硬い。それ以外におかしなところはなかった。
「けがはしていないか?」
「うん、大丈夫。隣町まで行って帰ってきてしまった。」
「隣町?とにかく帰ってきてよかったよ。家の中で話そうか」
「うん、ありがとう。」
隆二は、湯冷ましをコップと竹の水差しに注いでから、薬缶に水を足して火にかけた。
竈には枝を足し、様子を見てからコップと水差しを運ぶ。
「湯冷ましだ。今お湯を沸かしている。沸いたらお茶をいれるよ。何が飲みたい?」
「それなら、前に飲ませてくれた花の香のするのがいい。」
カモミールティか。ブレンド茶のアソートパックに入っていたのを一度だけ飲ませたことがあったかと思い出した。たしかもう1つ残っていたはず…。
隆二は、インベントリから取り出した。自分の分は、台所の棚に置いてある緑茶にしよう。
「どうして早かったんだ?」
「どこも食べ物がなくて悲惨だけど、2つ向こうの村の人たちが全部売り切るまで町を出さないっていいだしてさ…」
「はぁ?」
「物を奪われたり、殺されたりしなかっただけましだけど…」
「いや、十分ひどい目にあっているよ。商人が渡り歩くのなんて当たり前のことだろ?」
「うん、それは彼らもわかっている。わかっているから全部売ってもらうっていうのが彼らの限界だったと思う。殺されるのかとは少し思ったけど…彼らは食料が欲しいだけだったから…」
「それで全部粥にしてきたのか?」
「ううん、数日は粥売りをしたけど、いつまでも帰れなさそうだから村長と交渉して、米を売りつけてきた。」
「そうなのか」
「安心して、米の袋は渡せないと言って中身だけを移してきた。これ空き袋ね。」
「ああ、たしかに…」
女将さんとロティには、袋は特別なものだから空になったら回収すると伝えてある。実際はこの世界にないものなので、渡したままでいるのは心配だった。そのため、俺のインベントリには空の米袋が大量に入っている。
「それで、被害はコメだけか?」
「ん~まあ、他の町へ届けられなかったけど被害ではないかな?」
「どういうことだ?」
「あの村やこの町の周辺は一番飢饉の影響が遅かったから、金銀財宝が集まっていて…」
「うん?それはどういう意…!?」
ロティが腰袋から取り出したのは、豪華な宝飾品の数々だった。
読んでくださりありがとうございます。
評価をいただけると嬉しいです。