129
「これわざわざ冷ますならちょうどいい温度の湯ではだめですか?」
「それはダメなんだ。このミルクには、赤子の毒になるかもしれないものがあるかもしれない。スプーンやカップもそう。だから沸騰した湯で消毒して、沸騰した湯で作らないとならない。」
「毒!?」
「赤子にはね。大人は大丈夫だからわからない。だから念のためにやっている。守れるかな?」
「わかりました。必ず沸騰した湯で使う道具を煮て、ミルクも熱湯で作ります。」
「それじゃあ、カップを混ぜるのをやめて、1滴手の甲に垂らしてみて。」
隆二は、ナナに手をかざしてもらい熱さが来ないことを確認してから、自分とナナの手の甲に落として温度を確認してもらう。
「うん、大丈夫だね。飲ませてみようか?」
赤子を少し起こす形で抱いてスプーンで飲ませる。先ほどミルクを飲んで味と匂いを覚えたのか口を開けて飲み始めた。
「飲みました!」
「うん、これでおうちでも飲ませられるね。」
よかった。これで家へ帰ってもらえる。
先ほどと同様に半分より少し飲んでくれた。
立て抱きにしてゲップをさせる。先ほどは忘れていたが、寝かせている状態でゲップをしたら窒息することもあるのだ。姉がやっているのを思い出してよかったと思いながら、また籠へと寝かせた。フェイスタオルを半分に折ってかける。
「ミルクを飲ませたらさっきみたいに、縦抱きにしてゲップをさせること。」
「ゲップは何でさせるの?」
「飲んですぐに横になると、吐いたもので窒息…息ができなくなってしまうからね。縦だきでゲップをさせると防げるよ。」
「なるほど…」
「すぐに入らなくなるだろうけど、この籠のまま連れて帰るといいよ。」
「でも、この布は?」
「それは生まれたお祝いという事でどうかな?」
「ありがとう!」
ナナとヒイロを見送り、隆二は脱力した。
よかった。
あんなに骨と皮の赤ちゃんなんて初めて見た。腕に抱くのは怖くてたまらなかった。
少しだけど、赤ちゃんミルクを飲めたなら、きっと大丈夫だ。
この世界の人たちはどうにも食べていなさすぎる。ロティがあちこちで粥もどきのスープを売っても、女将が粥を売ってもそれだけでは十分じゃない。
この世界で食材が育たなければ、どうあっても滅亡するだけなのだろう。
粉ミルクはサカザキ菌やサルモネラ菌などに汚染されているので、70℃以上の湯で作り冷ますことが推奨されています。温度計もないので沸騰としました。
読んでくださりありがとうございます。
評価をいただけると嬉しいです。