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隆二は、哺乳瓶の乳首の代わりになるものはないかと探すがない。そういえば…昔何かで読んだ方法を思い出した。
口を拭こうと用意したタオルハンカチの三角の折り目をカップに浸けてミルクを吸わせた。
それを口元へと運ぶと小さな口をつんつんと突いた。
赤子はムニムニと口を動かし唇が開くとタオルに吸い付いた。
「おぉ!飲んだか?」
「ああ、たぶん飲んだ。」
何度かコップのミルクをタオルに浸けては赤子の口へと運んだ。小さな赤子だと一度に10gしか増えていないだのと姉が騒いでいたのを思い出す。それを考えると、このカップのミルクのほとんどは残っても不思議ではない。
「あの…こっちのお薬はどうしたら…」
「それは、君が飲むといい」
家で入れたミルクを持ってきていた。聞いてきた少女もひどくガリガリなのだ。
赤ちゃんミルクは栄養豊富なはずだから、少しはましになるだろう。
「ヒロ、ヒイロさんとこの子にお茶も用意してくれ。」
「シアン、二階にバスケットがあると思うから、小さな毛布を入れて持ってきて」
「わかった」
二人はてきぱきと動き始めた。
赤ちゃんミルクは驚くことに半分ほどまで飲んでくれた。頬に赤身が差してきてすやすやと寝ている が、赤子とは思えないガリガリ具合だった。
「ヒイロさん、このバスケットに赤ちゃんを寝かせてくれ。狭いけど落ち着くはずだ。」
「わかった…」
ヒイロさんがそっとバスケットへ入れる。
テーブルの横の椅子の上にバスケットを置いた。椅子は一人掛けの腕置き付きなので、テーブルとの距離を詰めればバスケットが落ちる心配はない。
「幼馴染さんと息子さんはどんな様子だった?」
「ああ、薬を1/8くらい飲んだら寝てしまったが、顔色もよくなっていたから大丈夫だと思う。」
「それならよかった。」
「そのミルクはもう腐るのか?」
「うん、そうだね。もうそろそろ捨てようか?」
「飲む!」
「飲んでみてもいいか?」
少女とヒイロの声が重なった。
ヒイロさんは苦笑して、スプーンで少し掬い取ると、残りを少女の前へと置いた。
少女は先ほど飲んだはずなので、おいしかったのだろう。
「なるほど、濃厚でうまいな。」
「なんとなく懐かしい味がするの…」
少女の言葉は、その通りだろう。
「これはお母さんの乳に近い味のはずだよ。飲んでいないからあれだけど…」
「そうなのか…」
「今少し飲んだから、これを赤子が求めるだけ飲ませればいい。」
「ええ?求めるだけ?それは…」
「赤子が育つのに必要だから仕方がないね。次に起きた時にスプーンで飲めるか試して、飲めるなら自分たちで飲ませられるだろ?」
「それならできるだろうよ。」
「私が頑張る!お母さんは苦しそうだもん。」
「そうか、それなら作り方を覚えてもらった方がいいな。赤子の目が覚めたら一緒に作ろうか。」
「うん!」
「ヒロ、ロロナとシアンも歯を磨いて寝る準備をしなさい。こちらの部屋は賑やかかもしれないけど、それは我慢してほしい。」
「それはいいけど…リュウジさんも無理しないでね。」
「わかっているよ。」
「ヒイロさん、少し離れてもいいですか?」
「もちろんだ。」
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