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コエたち3人は顔を見合わせてしまったが、仕事が先だろう。
着替えを済ませると、仕事の配置につく。
コエはカウンターの外で客を並ばせる役割になったので、声を張り上げながら客を並ばせていた。
並んでいる時にも思ったが、人数が多い。それがどんどん進んでいく。途中で「あと10を2回分の人くらいですね」とヒロくんに教えられた。
コエは、最大数の10人を数え、もう一回10人を数えた。
「すいません。ここから先の方は買えないかもしれません。」
ヒロがそう声をかけても5人ほどは帰らない。
順番に進んでいき、1人は粥を受け取っていった。
「申し訳ありません。粥はもうないのですが、裏口へ回ってください。鍋の濯ぎ湯をお渡しします。」
ヒロさんはこそっと残っている人たちに声をかけ、皆が出て行った。
リュウジさんは、鍋を下げるとそこに湯を入れて周囲をこそげ落とした。もう一つの鍋もそのようにし、そこに少しの塩を加えた。
裏口で待っている人たちにそれを均等に分けて帰らせていた。
「お代を受け取らないの?」
「あれは商品じゃないからね。だからと言ってカウンターで粘られても困る。こういうお得は誰にも言わない方がいいと思う人も多いから大丈夫だよ。」
「そうですか…」
「うん、君たちがそれをするのはよくないから、ギルドの人にしてもらうといいよ。」
「わかりました。」
ギルドの人にしてもらう?少し疑問に思った。
「洗い方なんだけど、スポンジを用意してある。洗剤もつけてあるから、これで擦り洗いをして、水で流してくれ。薬缶は濯いで底の煤を落とすように。」
「わかりました。」
「では、後をお願いする。君たちの報酬の粥はテーブルに置いてあるからね。」
「はい」
リュウジさんはそう言い残して帰ってしまった。
「え?」
「ねえ、水浴びしてこいっていうからてっきり…」
「私もだよ。どういうこと?」
女3人で狐にだまされた気分になっていた。
「でもいいんじゃない?今日は気が向かなかっただけかもしれないし。」
「そうだよね。今日は私たちも初日で緊張しているし。」
「そうよ。こんな服まで用意してくれて、粥まであるし…」
「見てよ。この粥、売り物より粒があるよ。」
「本当だねぇ」
「これが週に3回ももらえるのかい?」
「こいつはすごいじゃないか」
「いい仕事だねえ」
「こんな粥をくれるなんて、やっぱりそういう意味よ。」
「そうだね。」
「そうじゃなければおかしいよ。」
その後も、粥を作り終えたリュウジはすぐに帰る日が続くのだった。
3人の女たちが、勘違いだと気が付くのもそう遅くはなかった。
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