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「コエ、ちょっといいかい?」
「ギルマス、何か問題がありましたか?」
昨日の仕事先からクレームがついたのだろうか?
コエは不安になった。
ギルマスは、全身を見て頷いている。
「そうじゃない。週に3回の定期の仕事がある。面談があるのだが受けてみないか?」
「仕事内容は?」
「粥売りだ。」
コエは目を見開いた。
あの男性の店に違いがない。
「口が堅く、雇い主に逆らわない人がいい。わかると思うが、雇い主は特別なお方だ。失礼があっては困る。」
「やります!やりたい!」
「面談でいいと言われるように頑張ってくれ。報酬は金と粥を選べる。」
「それなら、粥です!」
「それがいいと思う。週に3回粥を得られるからな。」
「週に3回も…」
「もちろん、面談を受かればだ。」
「ありがとうございます。がんばります。」
「面接の前に水浴びをするように」
「わかりました。」
週に3回も粥を手に入れられるかもしれない。
もし、そんな仕事に就けられるなら、コニーはもっと元気になってくれるはず。
でも…少し不安はあった。ギルマスが「雇い主に逆らわない人」と言っていた。それに、「面接の前に水浴びをするように」とも言っていた。
それって…愛人にさせられる可能性があるのかもしれない。
大店の住み込みではよく聞く話だ。
それに…夫が亡くなって時間も経っている。夫のことは愛しているけれど、日々の食べ物を手に入れるだけで終わってしまいそうな人生には疲れていた。
そういうお誘いであっても…断ることは出来そうにない。
それでもかまわなかった。食べられずに死ぬぐらいなら身を売った方がマシと考える女性も少なくない。そんな中、そうせずに来たのはたまたま食つなぐことができたからだ。
体を売ったところで食べ物を得られない世の中なのだ。使える手段は使うしかない。
ギルマスに言われて期待しつつコエは面接場所へ向かった。
ギルドの受付で挨拶をし、連れていかれた部屋にはコエと同年代の女性が2人いた。自分を含めた3人とも、夫を亡くした未亡人だった。そして、自分で言うのもなんだけど、人並みよりは容姿がいい。
やはり雇い主の愛人も兼ねているのかもしれない。
あの粥売りの男が相手なら、愛人になるのも悪くはない。
そう思った。
「わかりました。それでは、3人にお願いします。」
「え!?いいのかい?」
「3人にお願いします。ですが、条件があります。それを聞いて考えてください。」
「うん」
「仕事の前日の午後以降か当日の朝に水浴びをすること。どうしてもできない時には、体を拭いてくること。ここに来たら、口を漱いで手を洗ってから作業をすること。できますか?」
「それは、台風の時はどうしたら?」
「台風や大雨では、客も来ませんのでお休みにします。」
「そうだよね。」
「今日はシアンさんとヒロさんもいるから、どうやって動くか見ていてください。それでできるか考えるように。」
「わかった」
面談場所に入ってきた男に自己アピールを全力で行った結果、3人とも採用されてしまった。やはり愛人採用だろうか?
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