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コエはその日も、何か仕事にありつこうと早い時間から商業ギルドに来ていた。娘のコニーはまだ4歳で、夫は娘が産まれてすぐに枯れ死病でなくなった。
腹に子がいるからとコエに食べ物を譲り続けて、この世からいなくなってしまった。
なんとか娘を産んだものの、満足に食べさせられなかった。それでもどうにか2人で生きてきた。
日々、わずかな賃金を得ても食べ物を買えるわけではなかった。
商業ギルドのカウンターには長い行列ができていて、仕事を探している人の列は特にごった返していた。
少ない仕事を奪い合う状態だった。そのために、安くても人が来るからと日当はどんどん下げられていて、最近ではほぼ1日かかる仕事でも小銀貨1枚しかないこともあった。数時間で終わる仕事は銅貨数枚にしかならない。
コエが出来るような掃除や洗濯場などの仕事は希望者が多いために銅貨程度だった。それでも働かなければ、食べ物が売られた時に買えないので、なんとか稼がないとならなかった。
そんな中、ある日商業ギルドの一角で粥が売られた。
一列に並ぶように言われ、並ぶという意味がわからなかったが、言われた通りに前の人の後ろへついた。順番を抜かそうとすると、ギルド職員に一番後ろに並ぶように言われるようで、大人しく従うことにした。
ギルド職員に逆らう事は、仕事を回してもらえなくなることを意味していた。
カップはいつでも持ち歩いているけれど、本当に粥なのだろうか?
「お次の方入れ物を出してください。」
上品な言葉に顔を上げると、見たことのない短い髪をした男性が粥を売っていた。服もすばらしく美しい生地でできていて、汚れもほつれもない。
男性の困った顔を見て、コエは慌ててカップと小銀貨2枚を渡した。
小銀貨2枚は、コエにとっては今週の稼ぎの全てだった。
カップに入れられた粥は真っ白で、粒が沢山入っており汁のようなところはほとんどなかった。今時は粥と言ってもスープであることが多いので、驚いてしまったが後ろがつかえているのですぐに立ち去った。
今日はラッキーだ。仕事はなかったが、食べ物を手に入れられた。
それも、こんなに粒の沢山入っている粥だ。これなら小銀貨2枚だって高くはない。そう思いながら急いで自宅へ戻った。
「コニーごはんだよ」
「ごはん…」
コニーはベッドから起き上がったが立ちあがれない。ここ2週間もこんな状態だったので、粥を得られて本当に良かったと思う。
「ゆっくりたべなさい。」
コエはコニーの口元へとスプーンを運び、粥を食べさせる。コニーは半分ほどを食べると眠ってしまったので、残りをコエが食べることにした。
一口食べると甘みと少しの塩を感じた。食べるほどに体中に力が沸いてくる。この粥は間違いなく特別な食べ物だと分かった。
これを売っていた人は見たこともない立派な服を着ていた。
ギルマスもさん付けで敬意を払っていた。何よりギルドのカウンターでの販売なんて通常ではありえない。
これはきっと、商業ギルドからギルドメンバーへの施しの一種なのかもしれない。
お金を支払ってはいても、そもそもそう簡単に食べ物が手に入らないのだ。商業ギルドに出入りしている私たちに優先的に売ってもらえた。それ自体が特別なことだ。
数日前に、白パンが売られていたらしいと噂を聞いていたけど、なんの冗談だと笑い話になっていた。だけど、もしあの人がかかわっているのなら、そういう事もあったのかもしれないと思えた。
「うそ…コニー…うっ…」
翌日、信じられないことに娘がベッドから降りてきて、自分で厠へ向かった。
それを見た時にどんな奇跡が起きたのかと思った。数日後、その粥が月・水・金の昼頃に販売されると発表され、その日のために稼ごうと奮起した。
それでも週に1回買うのがやっとだった。
本日の更新はここまで、明日の18時すぎに更新予定です。
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