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両親が生きている時は、食べ物のやり取りもあったけれど、僕たち2人になるとそういった交流も少なくなっていた。もちろん、収穫物が減っていったからだと分かっているけれど、僕たち2人は見捨てられた気分がしていた。ヒイロさんだけではなくて、近所の人たちもみんな顔を見る機会が減っていた。
そんな僕を助けてくれたリュウジさんにそのお礼をしなくちゃと思ったけど、あの日ギルドへ向かう途中に大人に絡まれ、リュウジさんに借りている高級な服を奪われてしまった。なんとかしようと服を抱きしめていたのに蹴られて剥かれて取られてしまって、僕は絶望していた。
それなのに、ヒイロさんとリュウジさんは俺のところに来て、助けてくれた。
「ヒロ、ごめん。これなら助かるはずだから、もうこれしか手段がないから頑張って飲んでくれ」
そういいながら、リュウジさんが飲ませてくれた薬は甘酸っぱくて、口にしたそばから体中に染みわたり、治る!僕は助かる!と確信したのを覚えている。
目が覚めた時、痛くて辛かった腹の痛みは消えていた。腕を骨折していたけどなぜか1週間くらいである程度使えるまで回復できた。
その上、ロロナは起き上がれるようになっていて、久しぶりにロロナと並んでテーブルにつくとまるで父さんと母さんといた時のような気分になった。顔を上げるといるのはリュウジさんとシアンだったけど、それでも幸せだった。だって、2人が僕たちを見る目はとても優しいものだった。
4人で食べるお粥はとても美味しくて幸せな味だった。
2人が高級な宿に泊まっていると知っていたけど、お願いせずにはいられなくなった。
うちには使っていない2階とベッドが2台あった。
一緒にいてほしいと懇願して、一緒に過ごすと決まってからは驚きの連続だった。
リュウジさんが僕の知っている人たちとは違うと分かっていたつもりだったけど、そんなレベルじゃなかった。
生活習慣から違っていた。
朝起きたら、顔を洗って口を漱ぐと約束した。
その水は、井戸まで汲みにいかなくてもリュウジさんが用意してくれていた。リュウジさんは台所の水瓶をいつでもいっぱいに汲んでくれている。
病み上がりに、生まれて初めてお風呂というものに浸かった。
お湯の入った盥に入って体を温め、石鹸を使って体をこすると臭いも汚れも簡単に落ちた。ロロナも僕もリュウジさんに洗ってもらい、頭も石鹸で洗われた。
髪は水浴びしてもべたべたしているものだと思っていたけど、あまりにもサラサラになり驚いた。腰まで伸びていた髪を紐で縛っていたけど、リュウジさんが短く切ってくれた。ロロナは肩くらいの長さになり、僕は耳くらいの長さになった。ナイフではなくハサミというもので切ってくれ、その切っている様子をシアンも興味深く見ていた。
ナイフだと髪が引っ張られるし、がたがたになるものだけど、きれいにそろうのだ。なるほどシアンの髪もリュウジさんが切っているらしい。
リュウジさんは、見たことのない物を沢山もっているけど、どこにおいているというわけでもない。
いつもリュックサックという背負い袋を持ち歩いているだけだ。
「リュウジさんの荷物ってどうなっているの?」
「ヒロ、わかっていると思うけど、詮索は禁物だよ。だけどわかるだろう?あのリュックサックという背負い鞄を失くしたりしないように、俺たちも気を付けよう。」
「うん。わかった。」
「リュウジさんが食べさせてくれている食事は、リュウジさんに出会わなければ絶対に僕たちが口にできるものじゃない。与えてくれる贅沢に馴れると大変だし、離れるようなことがあればつらくなる。それは覚えておいた方がいいよ。」
「そうだね。シアンの方が年上みたいだ。」
「それはない。俺は知らないことが多いよ。ヒロの方が知っていることだってあるよ。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
大工たちが来て、ロバの小屋を建てていた。場所は倉庫の隣の空きスペースだった。3日ほどで建ち、その間に倉庫に窓まで開けられていた。
大工たちがいなくなると、その窓にガラスのような透明な物が付いていたので、仰天した。窓のつけられた倉庫は明るくなっていた。
朝は無理だったが、昼と夕方の柵の漬け置きの手伝いはしていた。窓は明るいけれど外がはっきりと見えるわけじゃなかった。反対に外からもほとんど見えない。
毎日、仕事終わりに水浴びに行く。ロロナは、リリアさんが行くときにお願いしていた。水浴びで使う石鹸は気持ちよく、洗濯の時に使う脱水機はとても便利だった。リュウジさんは、僕が大変だな~って終わらすことでも、どうやって楽にするかを考えているらしい。それを考える間に終わるよ?というと笑っていた。
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