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「やっぱり思った通りロバはすごいな。一気に耕せた。ロバってどこで買える?」
ロティは、呆れたような顔で隆二を見ていた。
「ロバなら、3か月くらい待ってくれれば子供が生まれるよ。」
「え?この子雌だったのか。ごめんな無理させたな…それなら、栄養をつけねばならんな。ちょっと待っていろ。」
隆二は、牛乳を取り出すと半分ほどを深皿に入れてロバの前に置いた。
「リュウジさんそれは?」
「牛乳だ。持たないから今しか飲めないが、子供の骨を丈夫にしてくれるし、ロバが弱るのも防いでくれる。」
「そんな効果があるの?」
「たぶんあると思う。」
「多分なんだ。」
ロティはケラケラと笑った。
だが、やはりかなり痩せていた。きっとかなり苦労したのだろう。
「今夜はいい物を食おう。何か食べたいものはあるか?」
「なんでもいいのか?」
「もちろん」
「それなら、ハムの入ったサンドイッチが食べたい。」
「ああ、あれか…それなら卵もだな」
「いいの?」
「もちろんだ。食べたいものを言えって言っただろ?両方作ろう。」
卵のサンドイッチとハムのサンドイッチを作った。ハムにはレタスを挟んである。それを8枚切りのパン斤で作り半分に切ったので、8切れずつ出来上がった。
コンソメ味の野菜スープも作る。
5人で夕食を食べ終えるとロティに米を4袋売った。
それから、スキムミルクの袋を1つと栄養補助食品のクッキーバーが8本個包装の入った袋を渡した。
「これは?」
「こっちはスキムミルクと言って、牛乳から脂を抜いて粉にしたものだ。水に溶かしてロバに飲ませるといい。もちろんロティが飲んでもいいものだ。」
「ロバに飲ませた牛乳の変わりだね。」
「そうだ。それと、こっちは栄養のある食べ物だ。売らずにロティが食べるように隠しておくこと。こんな見た目だから食べ物だとは思わないはずだ。中も個包装になっているから、1本ずつ食べられる。食事を食べられない日に1本でいいから食べること。」
「リュウジさん…」
「それと…これも渡しておこう」
隆二は、フルーツキャンディの大袋を渡した。
「これは、飴といって砂糖を固めたものだ。口に入れて舐め溶かして食べる。ロバに乗っている間だと危ないから、休憩の時や疲れている時に食べるといい。」
「砂糖って…薬ってこと?」
「そこまでの物ではないよ。そうだ!薬で思い出した。これは、熱さましのドロップだ。」
隆二は1/3に切ったドロップを1片だけ袋に入れて口を縛った。
ロティはあきれた顔をした。
「ドロップなんて高級な薬だよ。そう簡単に手に入るものじゃない。もらえないよ。」
「ロティに何かあったら困る。ドロップなら日持ちするらしいから、半年以上上手くいけば1年は大丈夫だと言っていた。」
「どこで買ったの?」
「どこって、爺さんが薬師の店だったな。」
「爺さんってまさかガッツ翁!?」
「ごめん、名前は知らない。薬師街の一番端にある店で…」
「それはガッツ翁だよ。この街で一番効果が確かな薬師さまだ。」
「そうなのか、どうりであの爺さんこだわりがすごかった。」
「リュウジさん、翁と何かしたの?そう簡単に売ってくれないはずだけど…」
「いや、これを作るのを手伝わされたんだよ。それで1片もらった。」
「はぁ?どうしてそんなことに?あの人、めちゃくちゃ気難しくて有名」
「そうだろうな。いや、スライムを生け捕りにしたから、ドライスライム扱っているし、仕留め方を教わろうと思ってさ。」
「なんでそんな発想になるんだよ。それで、持って行って教わったの?」
「ああ、爺さんが槍でさっそうと仕留めてドライスライムの作り方も教えてくれた。」
「はあ!?ドライスライムなんて作り方自体が秘匿されているんだけど…」
「そうなのか?」
「信じらんない。リュウジさん、人たらしすぎる…」
「いや、単純に利害の一致だと思うよ。俺に教えたら生け捕りできなくてもドライスライムにして持ってきてほしいってことだろ?」
「そうかもしれないけど、いや…そうだとしても…」
「まあいいじゃないか。だから、これは買ったものではないから安心して受け取れ。そして、そんな有名薬師様のドロップなら安心して使えるだろう?」
「それはそうだね。わかった。ありがたく受け取る。」
「そうしてくれ。それで無事に帰ってくること。いいな。」
「うん、わかったよ。今回は3日くらい休んでから、近くの街を回って1か月で返ってくる予定だ。そうしたら、少しの間倉庫でもいいからここにおいてくれないかな?」
「ロバの出産のためだな。ヒロに話しておく。出産後はロバも休ませなきゃならんからな」
隆二は、仔ロバのための小屋の造りを考え始めていた。
倉庫では薄暗いので、あまりよくないだろう。それよりは、ロバ用の小屋を建てて、2頭過ごせるサイズにしておけばよさそうだ。
そこに小さい部屋もつければロティも気を遣わずに過ごせるだろう。ロティが出た後は機械置場にできるし、それがいい気がする。そうすると、大工の手配をして…。
隆二の妄想は広がっていった。
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