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「リュウジさんおはようございます。」
ドアの外から声がかかった。
隆二は、手を拭いてドアを開ける。
「容器はこれでいいですか?」
「はい、それに入れますね。」
今日は、蒸し南瓜のバターかけだった。
リリーさんの持ってきた容器には2切れしか入らない。隆二は、家の深皿にも2切れ盛り付けた。
「あの、小銀貨5枚のお約束ですが…」
「はい、その分です。」
「こんなにたくさんいいのですか?」
「もちろんです。まだあるので、よかったら今週中くらいはご用意できますよ。味付けや調理法は変わりますが…」
「それならぜひお願いします。」
リリアさんが隆二の手を両手で掴んだ。
え?
「あっ…ごめんなさい。」
リリアさんが慌てて手を放し、頭を下げた。顔を見ると真っ赤になっていて、こちらまで恥ずかしくなってくる。
「では、また明日お願いしますね。」
「はい、ありがとうございます。」
リリアさんは、深皿を2つ乗せたトレーを持って、帰っていく。
翌朝には、籠に入れて深皿を2つ持ってきた。それとは別に貸した深皿も返してくれる。
「今日は、煮物です。」
南瓜の煮物にはほんの少しだけ醤油を使った。香りづけ程度に抑えているので食べられないことはないはずだ。
「あの、今日で1週間ですね…」
「そうですね。明日は粥でもいいですか?」
リリアさんの言葉にそう返した。
食べ物に困っているのは、この一家だけではない。それでも隣にいるのだから助けたいと思ってしまう。
それに、毎朝リリアさんの顔を見られるのはうれしい。
最初の頃は、骨と皮で皴しわだったため年齢はわからなかったが、最近ではがりがりではあるものの骨感は消えていて、若い娘だとわかる。20代な気がするが、年齢を聞くわけにもいかない。
少ししか話せないけれど、それがうれしい。
「リリアさん?」
「うれしいです。とても助かります。」
「では、今日はギルドへ粥を作りに行きますが、明日からもここでお待ちしていますね。」
「はい!」
リリアさんを見送る。
昨日、気が付いたことがあった。リリアさんは、ここを出ると隣の自宅には帰らずに、一度お向かいの家を訪ねていた。
それから自宅へ戻っているようだ。
近所と上手に交流している様子だ。
ここ2週間ほどは南瓜ばかり食べさせてしまったので、なんとなく肌が黄色っぽくなっていた。明日から粥を食べれば、すぐに戻るだろう。
ヒロはともかくまだ消化機能が弱いロロナには粥がいい。粥はまとめて作ったものが『箱』に入っているので、毎朝そこから取り出してトッピングをするだけだ。
トッピングとして日替わりで「蕪の葉のごま油炒め」「蕪の塩漬け」「ゆかり」を用意していて、他に出汁でかきたまにしたものを混ぜた「卵雑炊」「鶏雑炊」の日もある。これは隆二の気分で変えていた。
ヒイロ一家には白がゆを渡していた。
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