107
ヒロが視線をそらしたのは、覚えていないのか?
「どうした?」
「その…怒らないで聞いてほしいけど…。」
「うん、言ってごらん。」
「厠は横にずらして、最後まで行ったらもとに戻すことになっているけど、僕一人じゃ大変で…ずっと同じ場所を使っていた。」
「そうか、何年ぐらい?」
「えっと3年かな?」
「わかった。」
親が亡くなってから移動させていない。それにも関わらず排泄物であふれてすらいないのか…。それはつまり食べている量も少なかったのだろう。
「怒らない?」
「怒るわけがないだろ?よく頑張った。」
ヒロは、号泣してしまう。慰めてやりたいが、やることは山積みだ。頭を撫でて声をかけた。
「そろそろいいかな?」
「ちょっと見てくるから、2人はここにいて。」
「うん」
隆二が、倉庫に入り上まで積みあがっている木箱の上部を収納し、下2段分だけ残した。収納した一部を取り出し、2段に均した。
置ききれない分はインベントリに入れたままだ。
2人のところに戻ると、ヒロは涙を拭いた。いい子だ。やることがあると気持ちを切り替えられるのは強さだ。
「シアンさんは、木箱を運び出してほしい。その前にこれをつけようか。ヒロさんもつけて。それと病み上がりだから無理はしないようにね。」
隆二は、アイテムリストで交換したマスクをつけさせた。カビを吸い込んでしまうのは肺をやられそうで怖い。
「ちょっと息苦しいかも。」
「うん、少し息苦しくてもこのままカビを吸い込むよりいいからね。苦しくなる前に倉庫の外で外して深呼吸をしてください。」
「うん、わかった。」
「はい」
「取り出したら、ヒロさんはこの盥の洗浄液でこすってくれるか?」
ヒロとシアンが作業に取り掛かるのを見てから、隆二も中へ入る。
隆二は入口近くに箪笥があるのを見つけた。
引き出しを開けると、バナの葉に包まれたものがいくつか見つかった。すべて開けてからインベントリへ収納して内容確認した。
『小松菜』『とうもろこし』『大麦』『ライ麦』『小麦』の五種類だった。
隆二は、引き出し3段の全てを引出ごと外へと運びだした。
種は使えるかわからないが、ダメ元で使ってみるしかない。
シアンが木箱を運び出している中に、インベントリから取り出した木箱も混ぜる。あらかた出したところで、シアンと隆二も洗浄作業に加わった。夕方には倉庫の1つが空になった。
燻すのは明日だな…。
隆二は、ヒロとシアンを連れて、近くの川へ向かった。
川では盥を取り出し、脱いだ服を入れてもらう。そこに水と洗剤を入れてつけ置いた。
二人と一緒に川から迂回させている水浴び場に入る。迂回させることで水流が弱くなっていて危険度が各段に下がっていた。
そこで水浴びをしていると、ギルマスが少年を連れてやってきた。