103 来客
「もしよければ、土地はどうだろうか?」
「土地ですか?」
「ああ、使っていない土地で、今は枯れているが…リュウジさんなら使えるのではないかと思う…」
「それはどうでしょうか?土地があればプランターよりは楽しめそうですが…育つかどうかはやってみないとわからないです。」
「それはそうだが、それこそやってみなければわからないことだ。」
「う~ん…農地を持つことでどんな権利と義務が課せられますか?」
隆二の問いかけにギルマスは苦笑した。
「前向きに考えてくれるなら、土地まで行こう…すぐ近くだ。」
「ここが、俺の家だ。この裏だから突っ切る」
ギルマスについていく。ギルマスの家は、ヒロの家の左横だった。
区画の中でもお互いの家が寄っているので、少しの畑があるとはいえとても近い。
歩いて5分だった。塀沿いに歩き水路を越え、畑を突っ切る。
「義務は、芋や小麦を納める義務がある。具体的な量でいうと1区画につき木箱5箱分ずつだ。もっとも見ての通り誰も納められない状況なので、町長も求めてこない状態だ。もし収穫できるようになれば、求められるだろうが遡って何年分とは言ってこないだろう。」
「なるほど」
「それと…本来は商業ギルドでの活動には売り上げの4割を納めることになっている。」
「そうでしたか、初めて聞きました。」
「ああ、普段は…実際の売値なんて計算できない場合が多い。場所代をもらうことで、同等としている。」
「ギルドの場所代は、確か無料だと…」
「そうだ。今回は特別に無料にしている。金をもらうよりも、ギルドメンバーの命をつなぐ方が重要だ。農家は食べ物ができれば食べられるが、商売をやっているとそういうわけにはいかない。食べ物を手に入れられなければ、金銀財宝なんて持っていても意味がない。」
「なるほど、それではそろそろ有料にしますか?」
「いや、そんなことは言わない。昨日、粥を売りに来てくれてよかったよ。昨日は無理かと思っていたので、暴動にならなくて助かった。」
「大げさな」
「大げさではない。貴重な食べ物を手に入れる機会だ。それができなければどうなるか考えるだけで恐ろしい。だが、今回のことで考えた。リュウジさんにしかできないことも沢山ある。それなら、粥を作るのはリュウジさんだとしても、売るのは他の者でもいいかもしれない。」
「つまり?」
「人を雇わないか?売り上げも大金だから、ギルドで預かることもできる。もちろん手数料はもらうのだが…」
「つまり、俺が粥だけを作りに行き、そちらの目の届くところで働かせて、売り上げはギルドで預かるから手数料は支払ってねと…本来の場所代替わりのようなものですか?」
「まぁ、ギルド内での販売に限りだが…そうとも受け取れるか。」
「ちなみに、そのお金の管理料はどうなりますか?」
「管理料は、入金時にはそのまま預かる。引き出しの時に引き出す金額の1割を手数料としてもらう。それとは別に年に一度、最終日である12月25日に残高の0.5%を口座管理料としてもらう事になっている。」
「なるほど。売り上げの4割よりは破格ですね。」
「ああ、それに…12月24日に全額引き出せば0.5%も掛からないからな。」
「そうですかね…」
大金を持っているくらいなら預けっぱなしのほうが安い。何度も出し入れすると、都度1割だが、預けたままであるなら年に0.5%の目減りで済む。
俺ならばその金をインベントリや財布にしまっておけばいいが、異空間収納がない人であれば気が休まらないだろう。
ギルドに預けられるなら、安心できる人が多そうだ。
人件費を支払い、いくら残るのかはわからないが、マイナスになることはなさそうだ。それなら、自分の時間を作れたほうがいろいろとできるか…。検討してみるか。
「リュウジさん、ここだ。」
案内された場所は、ギルマスの土地の裏手で、同じ広さの区画がボロボロの柵で囲われていた。
「この辺りは、同じ広さで区画が決められている。全面で160aあるが、家建物もあるので畑としては130前後だろう。」
「なるほど…一家で使うにはちょうど良い広さなのかな…」
「そうだな。順調に収穫ができていたころならそうだと思う。この間の薬の礼はこれでいいか?」
「う~ん…土地をもらうのは気が引けます。ずっといるかはわかりませんし…」
「そうか…」
土地と言っても、たぶんギルマスでは使いようがないから、いらないのだろう。
そして、ヒロの家にも近い。俺がプランターで野菜を作っているから、丁度いいくらいの発想だと思った。
多分、土地の価値は合ってないようなものだ。
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