第9話 罪の境界線
NULLは世界から“存在を消す力”。
黒崎 シンがその力を振るった今、空は問われている。
――「お前は、それを使わない側に立てるか?」
放課後の帰り道。
空は人気のない歩道を、一人で歩いていた。
鞄の中で、指輪がわずかに重さを持つ。
ポケットの奥に沈めたまま、触れないようにしているのに、そこに“ある”とわかる。
(……使おうと思えば、できる)
それが怖かった。
黒崎 シンがやったことは、明らかに間違っていた。
でも──
(……もし、あの力で、誰かを“消せば”)
いじめ。暴力。差別。
そんなものを持つ人間を、3分だけ“なかったこと”にできる。
世界の形は、少しだけ綺麗に整うかもしれない。
(いや、それはただの、自己満足だ)
空は立ち止まって、夜の空を見上げた。
夕焼けはもう沈み、空は蒼黒く沈黙していた。
(……黒崎は、自分の行動を“正義”だと信じてる)
(それが一番、怖い)
だから自分は──使っちゃいけない側に立つ。
たとえ、黒崎に何をされようと。
たとえ、世界が狂っていこうと。
自分までその“線”を越えたら、
きっともう、戻れなくなる。
その瞬間、スマホが震えた。
画面には、知らない番号。
躊躇いながら取る。
『……白河 空、くん?』
男の声。無機質で、淡々とした響き。
『君の力──NULLを認識している。我々は“接触”を希望している』
空の心臓が跳ねた。
(……誰だ)
『世界には、もう一人や二人じゃない。NULLの使い手が、現れている。
君の“立場”と“行動”は、今後の均衡を大きく揺るがす』
通信が切れた。
空は、電話を持ったまま立ち尽くしていた。
黒崎だけじゃない。
自分と同じ“罪の境界線”を歩こうとしている者が、他にもいる。
(……俺は、どうする)
足元がわずかに震える。
(この力を、持っている“責任”って──何なんだ)
NULLを持つ者の数は、もう“二人”ではなかった。
空は初めて、“自分の意思で選ばなければならない”と気づく。
次回、第10話「もうひとつの指輪」。




