第8話 選ばれし者
NULLは、相手を“3分間だけ”この世界から消せる力。
だが、その力がただの殺意や私怨に使われるとき──
「選ばれた者」は、何を守り、何を壊す?
翌朝の教室。
空は、黒崎 シンの姿を確認するなり、無言で席に着いた。
(……何かが起きる)
昨日、黒崎は言った。「僕、今日から動くよ」
その言葉が、頭から離れない。
黒板の文字が目に入らない。
教師の声も遠く、教科書のページも開かない。
ただ、黒崎の様子を、横目で追っていた。
だが──彼は、何もしていない。
いつも通りの態度。
手元のペンを動かし、ノートを取っている。
(ただの脅しか? いや……そうじゃない)
授業が終わり、昼休み。
空が購買へ向かうとき、黒崎の姿が消えていた。
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数十分後──騒ぎが起きた。
校舎裏で、3年の不良グループのリーダー格・工藤が倒れていた。
しかも「3分間、誰にも見えなかった」と周囲が証言していた。
教師も生徒も混乱する。
「さっきまでそこにいたのに」「急に消えたようにいなくなって、気がついたら倒れてた」
空の心臓が跳ねた。
(……NULLだ)
間違いない。
黒崎 シンが、“力”を使った。
あいつは本当にやったのだ。
実験じゃない。ゲームでもない。
他人に、“自分だけのルール”を押し付けてきた。
昼休みが終わる頃、黒崎は何事もなかったように教室へ戻ってきた。
目が合う。
空は立ち上がる。
「……お前、やったのか?」
黒崎は笑う。
「何のこと?」
空の拳が震えた。
「お前……これからもやる気か?!」
黒崎は視線を逸らさず、答える。
「白河。僕たちは“選ばれた”んだよ」
「神でも、悪魔でもない。けど、世界の構造に触れた」
「だったらさ、変えるべきだろ?」
「この“くだらない平等”の世界を──僕たちが、選び直すべきなんだよ」
その目は、狂気ではなく、確信に満ちていた。
空は、ただ立ち尽くしていた。
NULLは、個人の力から“社会への干渉力”へと変貌を遂げた。
黒崎 シンの行動は、空にとって“宣戦布告”ではなく、“世界改変の狼煙”だった。
次回、第9話「罪の境界線」。




