第7話 宣戦布告
NULLの力を持つ黒崎 シンは、すでに“使う覚悟”を固めている。
空の中に芽生えた不安は、次第に輪郭を帯びていく。
静かな戦争は、もう始まっていた──。
昼休みのあの一言が、まだ空の頭に残っていた。
「楽しみだなあ。これから」
教室に戻ってからも、黒崎はいつも通りの無表情を貫いていた。
(やっぱり……あいつは何かを知っている)
空は内心でそう確信していた。
午後の授業は何も頭に入らなかった。
チョークの音、教室のざわめき、日常の全てが遠く感じられた。
放課後になっても、空の胸のざわめきは消えなかった。
教室を出ようとしたとき──
ふと、窓際の席を見ると、黒崎 シンがまだ席にいた。
空はそっとその場を離れ、校舎の裏口から帰路についた。
だが、落ち着かなかった。
直感が告げていた。
(……このままじゃ終わらない)
(あいつは、動く)
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空が通学路に選んだのは、帰り道の途中にある閑静な公園だった。
太陽が傾き、空の影を長く伸ばす。
その時──
「よぉ、白河」
突然、背後から声がかかった。
空が振り返ると、そこには──黒崎 シン。
制服のまま、片手をポケットに突っ込んだ姿で立っていた。
「……つけてたのか?」
「たまたまさ」
黒崎は淡々とした口調で歩み寄ってくる。
「昨日、“NULL”の中にいたとき、君も感じたはずだ。
あの声。あの空間。僕たちは選ばれた。……否応なくね」
空は沈黙した。
昨日の“白い世界”──あの声。
同じ経験をしている。
「今日は君に、“お知らせ”をしに来た」
黒崎はほんのわずかに口角を上げた。
「僕、今日から動くよ」
「……動く?」
「“NULL”を使って、世界に証明する。
この力が、ただの“いたずら”や“自衛”じゃないってことをさ」
空は目を見開いた。
(本当にやるつもりか、コイツ……)
黒崎は静かに言う。
「止められるもんなら、止めてみなよ。
君の“3分”で、僕の意思を覆せるか──試してみたくてさ」
そして、踵を返すと夕焼けの中に消えていく。
空は拳を強く握った。
(ここからが……本当の戦いだ)
黒崎 シンの“動き出し”に、空はまだ何もできなかった。
しかし、次の瞬間にはもう誰かが──「消されて」いるかもしれない。
次回、第8話「選ばれし者」。