第6話 転校生
白河空の前に現れた、もう一人の指輪保持者──黒崎シン。
NULLの力を持つ者が、クラスの“隣の席”にやってきた。
何気ない日常が、今、凶器に変わる──。
朝のHR。
黒板に書かれた「黒崎 シン」という文字を、空は何度も見返していた。
教室の空気がざわめく中、扉が開く。
スラッとした黒髪の少年が、静かに一礼した。
「よろしく。黒崎です」
昨日の、あの男だった。
空は無言で見つめる。
黒崎の視線は、一瞬だけ空と交差し──すぐに外される。
「じゃあ黒崎くんは、白河くんの隣の席で」
教師の何気ない指示。
空の鼓動が跳ねた。
(よりによって──隣かよ)
午前の授業中。
黒崎は一言も発さず、ただ教科書を読んでいた。
手元には、あの黒い指輪。
空は視線を逸らし、考える。
(コイツの目的は何だ? 昨日、俺にNULLを使ったのは……試し? 脅し?)
昼休み。
空が購買に向かおうと立ち上がると、黒崎がすっと声をかけた。
「白河くん。……昨日の話だけど」
空の背筋がこわばる。
周囲の生徒がいる。聞かれるわけにはいかない。
黒崎は、わずかに口角を上げて言った。
「転入って緊張するね。いろんな意味で」
空は睨み返す。
「……お前、何者なんだよ」
黒崎は微笑みを崩さず、囁くように答える。
「君も、NULLを渡されたんだよね?」
「じゃあ、もう分かるはず。これは“誰かに選ばれた”ってこと」
「僕たちはただの高校生じゃない」
「世界の構造に、“爪痕”を残せる存在なんだよ」
空は、言葉を失った。
NULL──この力の背後にある、巨大な何か。
黒崎はそれを知っている。そして……使いこなしている。
空が黙ったまま視線を逸らすと、黒崎は軽く笑った。
「楽しみだなあ。これから」
“選ばれた者”として現れた黒崎シン。
NULLをただの能力として扱う空と、“道具”として割り切るシン。
次回、第7話「宣戦布告」。