第2話 誰もいない教室で
3分だけ、世界から誰かを消せる──。
白河空はその力を、本当に使ってしまった。
空は、放課後の教室に一人きりだった。
クラスメイトの気配はもうない。窓から差し込む夕陽が、黒板の端を赤く染めている。
ポケットの中で、例の指輪が熱を帯びていた。
(あれから3日……試してない。いや、試せなかった)
NULL──あの存在が言っていたことは、ずっと頭に残っていた。
『この指輪をはめて、名前を思い浮かべて。そうすれば、その人間は3分だけ“世界からいなくなる”。』
空はそっと指輪を取り出し、中指にはめた。
心臓の鼓動がうるさい。
思い浮かべたのは──クラスの人気者・佐野 美優。
彼女は空にとって、遠すぎる存在だった。眩しすぎて、見ていられないほどに。
彼女がいなくなったら、世界はどんなふうに変わるのか。
空が佐野の名前を心の中で呼んだ瞬間、“空気”が変わった。
背後で、何かが消える音がした。
教室の扉が開いて、クラスメイト数人が入ってきた。
「あれ?佐野は?」
「……え、誰それ?」
空気が凍る。
それまで彼女と親しくしていたはずのクラスメイトが、「佐野美優」を知らない。
空が使った力は、単に姿を消すだけじゃなかった。
存在そのものを、一時的に“この世界から消す”。
彼女の机も、荷物も、LINEの履歴も、全部が消えていた。
だが3分後。
空気が“戻った”。
佐野美優が、教室の扉を開けて入ってきた。
けれど、彼女の顔色は明らかにおかしかった。
「……私、なんか変な夢を見てた……」
指輪が静かに冷えていくのを感じながら、空は思った。
(この力、思ってたより──ヤバい)
NULLの力が“単なる透明化”ではないことが少しずつ明らかになってきました。
次回は、この力が周囲に与える“代償”や、“世界側のズレ”が見え始めます。




