第11話 境界の先へ
NULLを持つのは、孤独な英雄ではなく、傷を抱えた普通の人間だった。
空は知る。力の意味も、責任も、“まだ足りない”ということを──
その夜、空は眠れなかった。
雪の目が、焼き付いていた。
「……この指輪は、私にとって“救い”だった」
その言葉の重さが、胸の奥で鳴っていた。
黒崎 シンのように“支配”を望むわけではない。
雪はただ、逃げたかったのだ。
(じゃあ俺は、なにを望んでる……?)
⸻
次の日の朝。
空は目の下にクマを作りながら、学校へ向かった。
1限目の数学。
先生の声が教室に反響している。
黒崎 シンは、今日も変わらず席についていた。
手元のノートには、びっしりと文字が並んでいる。
空は無意識に、昨日の雪と、黒崎の“共通点”を探していた。
(……似てる。感情を見せない。目が、乾いてる)
昼休み。
空は屋上ではなく、図書室にいた。
誰とも話したくなかった。
机に肘をつきながら、ぼんやりと時間を潰す。
そのとき──
「……白河くん、今日、元気ないね」
声をかけてきたのは、クラスメイトの瀬戸 ことねだった。
地味で目立たないタイプ。
でも、真面目でよく気配りする子。
「……別に、普通だけど」
空は短く答える。
ことねは笑う。
「ううん、空くんって、すぐ顔に出る。そういうとこ、昔から変わってないよ」
「……俺たち、昔からの知り合いだっけ?」
ことねは「え?」と戸惑ったあと、少し寂しそうに笑った。
「ううん、なんでもない」
その言葉に、空は妙な違和感を覚えた。
(“昔から”?……あの子、そんな感じじゃ……)
放課後。
下駄箱で靴を履き替えようとしたとき、
ある張り紙が視界に入った。
『生徒の間で、“数分間だけ消える人物”の噂が広がっています。虚偽の情報に惑わされず、冷静な行動をお願いします』
空の心臓が跳ねた。
(……もう、広がってきてる)
急いで校門を出ようとしたそのとき──
黒崎 シンが校門前で、誰かと話しているのが見えた。
空が目を細める。
パーカー。長い黒髪。細身の影。
(……雪!?)
だが、視線が合う前に、ふたりの姿はすれ違い、消えていった。
雪は“孤独”だったのか、それとも“誰かと繋がっていた”のか。
空はまだ、真実の“境界線”を見ていない。
次回、第12話「記憶は嘘をつかない」




