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市へ

「これが、市──」


 驚嘆の声が漏れる。

 フィーネは街路の中央に立ち、露店や屋台が立ち並ぶ光景に目を奪われていた。


 やはり、はじめて訪れた市の賑わいは圧巻だったようだ。それも無理はない。カミルですら訪れるたび、市の活気には驚かされていたからだ。


 しばらくは感動に浸らせてあげたい気持ちがあった。だが、街路の中央で棒立ちは危険だ。開催直後で人の往来が激しくない時間帯だからまだ問題ないが、これが賑わいのピークならぶつかるのは免れないだろう。


「おい、フィーネ──」


 フィーネを通りの端に寄せるため、カミルは声を掛けようとした。


 そのとき、フィーネに迫る人影を捉える。その者は草木染めのケープを羽織っていた。フードを目深に被っているせいで、顔は確認できない。身長から察するに女だろうか。


 女は道を譲ろうとする様子がない。悠長に声をかけていたら衝突してしまうだろう。フィーネの盾になるように、カミルは一歩前に踏み出した。


「おっと」


 すれ違いざまに肩をぶつけられる。だが、ケープを羽織っていた者は予想通り女だったのか、強い衝撃に襲われることはなかった。よろめくだけで倒れない。そんなカミルを見て、フィーネははっとする。


「レ、レーヴェニッヒさんっ……」


「気をつけろよ。市は人の往来が激しいからな。ぼーっとしてるとぶつかるぞ」


「す、すみません──」


「謝ることでもないよ。意識すれば大丈夫だ。通りの中央じゃなくて端の方を歩こう」


 フィーネの手首を握り、カミルは通りの端へと移動させた。フィーネの赤みを帯びた頬を見ながら手を離し、通りを進もうとして、その際にふと気付く。


 肩を当ててきた女が、なぜかこちらを凝視していた。いや、フィーネを凝視していると言ったほうが正確かもしれない。


「……?」


 カミルは訝しげな視線を返す。ケープの女は身を翻し、そのまま人混みに消えていった。フィーネを誰かと勘違いしたのか。カミルはしばらく首を捻ったままでいた。

 フィーネが通りの奥を指差したのは、そのときだ。


「レーヴェニッヒさん、あそこには何が売っているのでしょう?」


 その指が差す方向には、円錐形にカットされたダイヤが描かれた看板を掲げた屋台があった。カミルはすぐ何の店か分かる。


「宝石屋か。市ならではの店だな。しかも、あのマーク。ピーチュ地方のダンメンハイン商会じゃないか?」


「ほうせき、や……」


 フィーネは瞳に昂揚の色を宿す。女の子だけあって、宝石に興味を抱いたようだ。だが、焦れるような仕草を見せてからは言葉を紡いでこない。どうやら遠慮をしているようだ。


 カミルは、ふふ、と鼻を鳴らしながら訊く。


「ちょっと覗いてくか?」


「は、はいっ!」


 フィーネは声を弾ませた。二人は人波をかき分けて進み、宝石屋を覗く。


 その店には、多種多様な宝石が並んでいた。

 ダイヤ、真珠、エメラルドなどオーソドックスな宝石から、琥珀やアメジストなど物珍しい宝石まである。ネックレスや指輪など、宝石をあしらった装身具も販売されているようだ。


 フィーネは、碧色の宝石があしらわれた髪飾りを凝視している。


「アクセサリーは、試着しても問題ないみたいだな」


 カミルが雑に固定された羊皮紙の記載を読み上げると、フィーネはそわそわした様子で髪飾りを手に取った。髪飾りを留めたフィーネを目にし、カミルは感心する。


「似合うな。やっぱ素材がいいとアクセサリーも映えるのか」


 カミルは正直な感想を溢す。するとフィーネはぎょっと身を震わせ、カミルを半目で睨んできた。


「け、軽蔑します……」


「なんで⁉」


「な、何の抵抗もなく女性を褒められるだなんて軽薄です……私が読んできた本に登場する男性は詩や歌に乗せながら女性に称賛を送っておりました。そ、それほどの慎みを持つのが普通ではないのですか……?」


 フィーネは不愉快げに言った。カミルはその言い分に頬を引きつらせる。


「いや、本の世界での常識を引き合いに出されてもな……褒めたい気持ちは素直に言葉にするのが普通だと思うが……」


「そ、そういうものなのですか……?」


「お、俺も女に関してはほぼ姉貴みたいな酒乱しか関わったことはないから自信はないんだけど……でも、気分を悪くさせたならごめん……」


 カミルは頭髪を擦り、謝る。すると、今度はフィーネがすまなそうに俯いた。


「い、いえ……その、気分が悪くなったわけでは、むしろ……」


 ごにょごにょと喋ってから、最後は口を噤む。

 沈黙が訪れた。途中で気まずさに耐えられなくなったカミルは、無理やりながらも話題を振る。


「へ、へー! こんなものも売ってるんだな!」


 声を上擦らせながら、今度は十二種類の誕生石に目を向けた。

 過去の市でもガーネットやオパールなどが単体で販売されている光景を目にする機会はあった。だが、誕生石のくくりで十二種すべてが並んでいることは稀だ。


「フィーネの誕生月はいつなんだ?」


「えっと、私はアウグストですね」


「そうか、じゃあ誕生石はペリドットに──って、え?」


 途端、目を丸くする。


「いや、アウグストって今月じゃないか! 具体的には……」


「満ち欠けの周期が、満月になったときだと記憶してます」


「なら、来週くらいじゃん……」

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