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80.光の塔 ⑰

 銀色の雄大なる機体が、遥か下方に位置する市街地へ巨大な影堂々と落とす中――。


 ほとんど神業とも言える身のこなしで広場襲う焼夷弾の雨あられ巧みにかわすや、城壁の門潜り抜け、あっという間に堅牢な建物へと吸いこまれて行った真っ赤な機体。途端あれほど凄まじかった力の波動が分厚い壁によってぐんと弱まり、三人のブレイカーのイメージも早ぼんやりしたものとなる。

 それゆえその光景見たゴルディアスが上空より知らず苦々しげな顔現わしたのはむろん言うまでもない様相で、はたして彼はレバー握る手に力をこめ、憤怒にも似た低く重い声発していたのだ。


 「そんな所に逃げ込んでも無駄だ、監獄ごと焼き払ってくれる!」


 その鋭き瞳、隠しようのない狂気でことごとく染め尽くして。


 そう、あんな胡乱な連中、今すぐ圧倒的な力による制裁で容赦なく一掃してしまわなければならない。何よりそのための最高の武器が、我が手にはいくらでも尽きることなくあるのだから。


 (だが、この力、……一体何者だ?)


 ……そして何より早く消し去り排除する必要があるのは、あの一際強烈な光輝放ってくる、得体の知れぬ力動の持ち主。

 それは見たことも聞いたことも、ましてや想像したこともない範疇の、しかし間違いなくオーバー・ブレイクだけが持てる光気に覆われた存在だ。すなわち、あろうことかただひたすらこの自分に恐怖さえ覚えさせている、桁違いなまでに高きレベル誇る、あまりに謎めいた者。

 

 ――こんな辺境には、絶対にいる筈がないと断言しても一向に構わない、最強クラスのブレイカー。


 (なぜ、そんな奴が儂の町にいるのだ――)


 むろんその(たと)える術一つもなき衝撃は、どう否定しようと決して薄れることがない。

 いや、かえって武者震いとも怯懦(きょうだ)の戦慄ともとれるものは時間を追って大きさ増してきたくらいで、事実、その血走った瞳はさらに限りなく大きく、そして狂的に見開かれ……。


 (逃すわけにはいかんぞ、これは)


 ――よってそれをまざまざと感じた男がかえって恐れに駆られながらも刹那ブレイカーとしての闘争心燃え上がらせ、その気迫もまさに鬼気迫るものへと化させていったのは、その生来の荒くれた気質からして、むしろしごく当然の事態なのだった。


                  ◇


 「どうすんのよ、これから! マジでもう逃げ場なんてないわよ! 一体あとどこに行けば――」


 監獄正面扉入ってすぐ、ひたすら牢獄棟へ続く長い渡り廊下中に木霊(こだま)響かせ必死の問い投げかけたのは、むろんクロニカだった。もちろん今はすでに<ファイアー・ドレイク>から降りた状態。愛車の傍らに立つ、全身黒革のつなぎ姿は相変わらず勇ましかったものの、しかし現在その表情を彩るのはあからさまなほどの怯えと疲弊だ。

 当然ながらその額にはおびただしい量の汗も浮かび、いかに今まで彼女が全神経集中して天才的操縦術披露していたか、分かりやすいくらいに明示しているといえよう。

 よってその当の問いかけられた相手、窓際に立ち上空じっと窺っていたロビーも、次の瞬間にはそんな彼女(ねぎら)うべく、さっと振り向くや穏やかに声をかけてきたのだった。


 「逃げると言っても、今のところこの建物が一番安全だと思うんだが。それにクロニカ、とにかく君は少し休んだ方がいい。あれほどの技を駆使してずっと<ファイアー・ドレイク>に乗るなんて、まず普通はありえないことだから」

 「そんなこと言われたって、この状況で……」

 「ここなら、上からの攻撃にもまだもう少しは耐えられるはずさ。せめてその間だけでも、君には力を蓄えてもらわないと」

 「――もう少しは、ねえ」


 むろん対するクロニカは浮かない顔でそう答えるしかなかったが、しかし考えるまでもなく疲労が相当溜まっているのは確かに厳然たる事実。ゆえに結局はせっかちな彼女もふうとため息吐き、今はロビーの提案通りにするしかない、と次の瞬間には観念していたようだった。


 「まあ、確かにこの子が早く起きてくれない限り、私たちにやれることなんて一つもない、か」


 ふと自分の足元で安らかな顔していまだ静かに横になっている、赤髪の修道士の姿見やりながら。


 「――アクセル君は、まだ目を醒ましそうにないのか?」

 「うーん、何か少しずつ動いたりもしているから、あともう少し、のような感じもあるんだけど」

 「そうか。ということはこの監獄が無残に破壊されるか、彼が何とか覚醒するか、まさに時間はギリギリってところだな……」

 「と、何よ縁起でもない。大体あんたがついさっきまだ大丈夫みたいな感出してきたのよ?」


 と、しかしそこで相棒がふいに少年の様子窺いながら表情陰らせてきたので、当然クロニカとしては抗議の声上げたくなってしまう。実際建物内に響き渡る、何かが燃え上がり破壊される音は先ほどから一切衰えることなく、むしろますます勢い増してさえいるのだ。そんな一言耳にすると途端また弱気の虫が出てきて気も慌ただしくなってしまうのは、あまりに自明の理というやつだった。


 「あくまで今確認できる客観的事実を述べただけさ。別に怖がらせるつもりは欠片もない」

 「じゃあ結局ここもヤバいってことじゃ――」

 「あと、ついでに参考までにもう一つ付け加えさせてもらえば」


 しかもあっさりそう応じると、さらに声を一つ落として言葉重ねてくるロビー。何よりそこにあったのは、彼としては珍しいことに妙に憂鬱げとさえ思われる響きで――。


 「……な、何よ。まだ他に何かあるの?」

 「君もここへ来れば分かる。この窓から上を見れば」

 「?」

 「ゴルディアスが次に<箱舟>で何をしようと企んでいるのか」


 そして青年は従来よりもさらに生真面目かつ深刻な表情保ったまま、対照的にいまだ訝しげな顔した相棒を唐突に自らの傍、廊下に穿(うが)たれた窓の下へ呼んだのだった。


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