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73.光の塔 ⑩

 ジグラト・シティ第一層、市を二分する大通りの尽きる先、開け放たれた巨大な城門前には、先ほどからすでに黒山の人だかりができていた。

 むろんそこにいるのは老若男女、貧しい者から富者、一般市民から兵士までと、まさしく都市の全成員の一大カタログのごとく。何より皆が皆慌ててこの町から抜け出そうと、同じ気持ちでひたすら市外目指している。それほどまでに反乱軍の流した、<箱舟>今にも自爆しようとしているという話が真実味あったということか、中には家財などを置いて着の身着のまま出てきたらしき人々も数多く、当然ながらそれは市民襲った混乱ぶりがかなりのものであった、という余りに明白な証拠でもあるのだった。


 それゆえそんな状態をずっと野放しになどとてもできるわけなく、監獄解放を他に任せ反乱軍主力部隊が急ぎ門の付近に集結、人々の誘導や整理にしかと当たることとなったのはわざわざ言うまでもない。すなわちおのずとハウドやマルカスら軍首脳陣も、懸命に事故や騒動の類が起こらぬよう周囲から目を光らせており――。


 「おお、御覧ください! 間違いなく、ゴルディアスに捕らわれていた人々です!」


 そうして大通りの端から注意深く民の動き見守るのに励む中、マルカスはその時目敏(めざと)く、ようやくにしてその待望の集団見つけること適ったのだった……。


                 ◇


 「カル、メオナ!」


 遠くより掛けられたその野太い男の声に、寄り添って歩く二人の男女はハッとどちらも面を振り向けた。身体はともに大分痩せ細り、頬もげっそりとした感のある、灰色の粗末な寛衣まとった彼らだが、しかしその瞳には理知的な輝きと、そして何より(くじ)けることなき勇敢さがいまだありありと灯っている。当然ながらこちらへ向かって歩いてきたいかにも大物然としたその人物を見ても、二人の態度が妙にへりくだることなどいささかも有るわけがないのだった。


 「ハウドか!」


 いやむしろ、そうして金髪の30代後半と思われるカルと呼ばれた男性が彼の名を嬉しげに大きく呼ぶと、それに呼応して傍に来た堂々たる体躯誇る武器商人の方がふいに敬礼し、まるで臣下ででもあるかのような態度取っていたのだから。


 「おい、よしてくれよ! 何のつもりだ?」


 当然手を振ってそれを慌てて制しようとするカル。全体的に見れば優しげな面立ちした、金髪の下黒い瞳輝かせる人物だ。


 「我が反乱軍の最高指導者に対しているのだ、無礼など働けまい」

 「最高……指導者?」

 「お前が基礎を創り上げ、成長させた軍だ。そう、ゴルディアスからこの町解放するために」

 「何を――」


 さらにハウドが妙にかしこまった口ぶりでそう続けてきたため、彼の表情はますます戸惑い強めたものとなる。

 何より今や名将と呼んでも過言ではない手練れの軍指揮官にそんなことを言われているのだ。自らはずっと牢の中だったこともあり、かえって狼狽(うろた)えること甚だしい。

 よって何とか反論めいた言葉、相手に向かって発そうとしたものの――。


 「フフ、せっかくそう言ってくれているのだから、ありがたく頂戴したら、総指揮官殿?」


 しかしその瞬間、ふいに無二のパートナーである隣の、銀髪に青い瞳した女性が悪戯っぽい面して口を挟んできたのだった。



 「二人とも無事なのね!」


 かくて三年ぶりの感動の再会果たした後、互いに熱く抱き合うと、いよいよ本題とばかりにハウドは二人に向かって途轍もなく重要なことを述べ始めた。それはむろん、その三年前から両親と離れ離れになってしまった二人の、まだ幼い兄妹に関してで……。


 「ああ、安全なところで保護している」

 「病気はしていない? リンツは怪我を、リルカは風邪を引いたり……」

 「はは、まあ俺たちの所にいるわけじゃないが、しかし保護しているのはとても信頼できる人々だ。間違いなく無事だろう。そう、近いうちにすぐ会えるさ」

 「よ、良かった――」


 その一言に今しも顔を手で覆い(くずお)れんばかりの妻メオナをすかさずそっと支えてやりながら、カルが今度は自分の方からハウドへと礼を返した。


 「ハウド、ありがとう。三年前仲間のキイツに預けたあの二人だが、しかしその後彼もゴルディアスに捕らわれたと聞いて、凄く心配していたんだ。本当に良かった、誰かに(かくま)われていたみたいで」

 「うむ、だからその礼は俺じゃなく、その修道院の方々に言うべきだな。何、明日にでも会える手筈は整えてやろう。一応、そこからやって来た者がこの町に一人いるから――もっとも」


 と、そのあたりまで快活に喋っていたハウドだが、そこでふと表情が真剣なものをはっきりと帯びる。どうやら彼には、その修道院から来たという人物が、今や最大にして最重要な関心事のようらしく――。


 「彼にはこれから大きな、――そう余りに大きな仕事があるから、全てはそれが終わり次第、ということなんだが」


 はたしてその最後にポツリと零された一言にも、尋常ならざる緊張感がおのずと籠っていたのだった。


 「……だが、一体何が起こるのかは、結局誰にも分からんのだが」


 ――そう、最終的には不安とも期待ともつかぬ光、その両の瞳に茫洋(ぼうよう)と宿らせつつ。


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