71.光の塔 ⑧
一瞬唖然としたハウドたちをよそにアクセルはそうしてかすかな笑み浮かべると、すぐにその顔を今は知己の仲であるロビーへと向けた。
「デュナミスを消す、唯一の方法……なるほど、それであの時、ゴルディアスのブレイカーとしての力奪えると言ったわけですね」
その笑顔ながらもどこか静謐とした様子に何を認めたものか、問われた方の青年は、一瞬の間を置いてから一つうなずき、きりりとした表情で答え返している。
「ああ、もちろん。ゴルディアスは三年前の暗殺未遂事件で重傷を負った際、自らの箱舟から力を貰い何とか一命とりとめている。だがその代償として、箱舟は大きくエネルギー減らすこととなった。そうしてそれは回復しつつあるとはいえ、今も続いているはずなのだから。――そしてオーバー・ブレイクが一時的にでも力弱めれば、この言葉で<覇印>消すことが可能となるんだ」
これにはいかにも感心した顔の少年。
「そしてその技を、まさしくその二人に使用した、と」
「そうさ、殺すことに対して特に意味がないならば。――そしてそれこそが、僕らの選んだやり方」
むろん、あくまで淡々とした調子で応じるロビー。
すなわち、まるでごく普通のことを述べているかのように。
……だが、それはまさしく、周囲の人々にとっては想像を完全に超越した異人同士のやり取りに他ならないのだった。そこで語られていたのは、もちろんオーバー・ブレイクを巡る話。――しかしあろうことか、その使い手であるブレイカーからその聖なる証はぎ取ってしまうと言っているのだ。もはやこうなると何が何やら、どう耳にしても予想の埒外としか取れぬ内容。自然聴衆はじっとそれに聴き入りつつ、いつしかシンと辺りは静まり返ってさえいる。
「……」
そうしていまだ戦の気配漂う中、その監獄前広場という1スポットだけは、奇妙なまでの静寂が我が物顔で覆い尽くしていたのだが……。
「ハウド様!」
――と、だが、その時。
「ム、何だ?」
「お伝えします!」
兵士たちのそんな静かな群れを掻き分け、一人の伝令役らしき男が急ぎ、ハウドたちの元へと駆けつけて来たのだった。
◇
「何、第三層の代表が、我々に味方すると申し出てきた、だと?!」
「はい、どうやらキリクとエドアルトを倒したという情報、早くも掴んだようで……」
「現金な奴らだ、今頃になってようやく動き出したか」
「ですがこれは大きな力となります。まさに今、十二分に利用しない手などありえません」
伝令の報告にいったん二人から視線離しそう呆れたような声出したハウドだが、すると対照的に横からマルカスがいかにも興奮しつつ口を挟んできた。
「さらに都市中にゴルディアスの側近ももうすでに倒していると大々的に告げて回れば、この戦、もはや今日中に我々の勝利となりましょう」
「うむ、いくら武名高き猟兵隊とはいえ、頭の二人が倒されたと知れば、すぐ戦意も喪失するだろうからな」
この言には当然深くうなずき納得する反乱軍首領。
そうして参謀に向ける一言も実に力強い。
「ゴルディアスも今はほぼ無力である以上、まさに決定的、というやつか」
「敵方には、少なくともブレイカーはもう誰もいなくなりますゆえ」
「では急ぎ、兵たちを伝令として各区画へ派遣して――」
「……それならば」
――と、だが、二人の話が俄然そんな熱を帯びてきた中、そこでふいにすっとやはりそよ風のように割りこんできたのはアクセルである。相も変わらずどこか違う所を見ているというか、超然的とも言える表情。もちろんハウドたちが昨夜会ったあの少年の面影からは遠く、いやむしろどんどんと乖離しているような印象さえある。
そして当然ながらその雰囲気にはハウドも、さらに話し中だったマルカスですらも自然、途端真剣な顔で彼の言葉に耳を傾けざるを得なかったのであった。
「その伝令役の兵の方々に、僕からも一つお願いがあります」
「お願い、君から……?」
「はい。今すぐ、全軍、いや戦に参加しなかった人々含め、この町から一斉退避するように、と」
「な、何だと?!」
しかし、次いで少年の口から放たれたのは、余りにも常軌を逸した発言。そう、何とようやく戦いの決着がつこうかとしているまさにその時に、あろうことか全軍引き上げよ、などと言っているのだから。
そんなげに奇妙なこと突然宣ったアクセルへ、さすがにマルカスがすかさず怪訝な色瞳に染め、強く反論していたのは言うまでもなかった。
「君は一体何を言っているんだ、もうすぐ我々はこの戦に勝てるのだぞ? そんな時に逃げ出すような愚かな真似をすれば、むしろいくら敗勢濃い敵軍でも立て直させてしまう可能性がある。それでは今までの苦労が完全に水の泡というものだ」
「確かに普通の軍相手ではそれが常識でしょうね。でも……」
「? 普通の、軍……?」
そこでふっと、アクセルの顔をかすめた翳のようなもの――もっともそれは、マルカスの単なる気のせい、というやつだったのかもしれない。僅か次の瞬間には、跡もなくその不穏な色も消え失せていたのだから。そしていずれにせよ少年の言葉はそんなことに構いなく静かに続き――。
「最後の相手がゴルディアス及びそのオーバー・ブレイク=<箱舟>ともなれば、この戦争も、形勢はそこで一気に逆転してしまいますから」
……そうしてまたもや、恐るべき、加えてとても信じられぬ一言彼はおもむろに、そう予言者のごとく告げてくるのだった。




