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68.光の塔 ⑤

 かくて魔性の斬撃食らわさんと駆け出した、その刹那――。


 「!」


 ふいに彼方に立つロビーが目を開き、そして再びすい、と<魔弾>前方へ突き出してきた。

 そのあまりに滑らかな、そして冷静沈着で慌てたところのまったくない、流れるがごとき動作――。


(――来るか)


 知らず、一瞬キリクは自らへ向けられたその筒口見て警戒心抱くも、しかしいずれにせよ仕掛けてくる攻撃は同じと瞬時に判断し、その脚はむしろますます速度を生んでいく。そう、相手のオーバー・ブレイクがどんな弾丸放ったとしても、正面からならばただ斬り払えば済むことなのだ。

 むろん青年の射撃の腕の正確さなど、彼にとってはもはや大した問題ではない。

 その攻撃を封じることできた以上、そうして後はただ、闘気の導くままこの赤い剣の餌食とするだけなのだから。


 そう、勝負はあと数秒で終わる。

 ブレイカー同士の、互いに火花散らす決闘は。


 「ム!」


 ――それゆえであろう、迫り来る剣士に対し、一拍の間を置いてロビーが本当にオーバー・ブレイクの引き金力強く引いても、まさしくキリクは避ける素振り一つ、驚きの表情一色(ひといろ)見せることなかったのだった。


                  ◆

 

 そして再び響き渡った、何かが発射された音。


 それは、まさしく正確無比そのものの一弾だった。

 完璧に狙い過たず、キリクの心臓目掛け発された高速の弾丸――。

 むろん相手が普通の人間だったならば、その時点で回避する術など一つもなかったであろう。必然的に間を置かずして、そこに一体(くずお)れゆく身体が出来上がっていたはずである。それもほとんど即死か、少なくとも戦闘不能へと陥った状態で……。


 「させるか!」


 だが、当然ながらよりにもよって、その相手としたのは限界以上に能力強化されたブレイカー、それ以外の何物でもない。

 当然のごとくキリクはすかさず刃を一閃、問答無用で振り下ろすや――


 「おお!」

 「弾いたぞ、あれを!」

 「な、何という腕だ……」


 かくて敵味方含め遠巻きにする周囲の連中が思わず驚愕の声次々と上げていたように、瞬間鋭い金属音がして、ロビーの渾身の狙撃はいともあっけなく弾かれてしまっていたのだった……。

 途端墜とされた弾を、無残にも地面のどこかへ転がらせながら。

 だがむろん、キリクはそうした見事な迎撃の余韻に僅かでも浸っているようなやわな心の持ち主ではない。


「お前の攻撃など、一切通じぬ!」


 彼は勢いそのまま、瞬時にいまだ手筒構えた青年の懐近くへ身体ごと飛びこむと、剣再び大上段に振り上げ、まさしく息つく暇もなく必殺の一刀放っていたのだから。

 げに凄まじき、そう、烈しい剣風さえ生んだ光の刃で――。


 「喰らえ!」


 しかして鋼をもはるかに凌ぐ切れ味持つ魔剣は、言うまでもなく完全に無防備なブレイカーへ音すら立てて叩きこまれていき、当然そのすぐ後には、哀れにも一つの亡骸(なきがら)が石畳の上に転がっているはずなのであった。


                  ◆


 ――しかし。


 「な、何?!」


 刹那、どこまでも驚愕に満ちた声が、キリクの口から洩れていた。

 そう、彼の閃光剣が一刀両断に相手斬りつけたかと思われた、その瞬間――。


 「消えた……?」


 あろうことか、眼前にいたはずのロビーの姿が、霞のようにふっと消え失せてしまったのだ。しかもその後にはまさに影一つ残さず、完全に虚ろな石畳だけが広がっている。何よりその消失の仕方はあまりにあっという間すぎて、キリクには一瞬何が起きたのか理解できなかったくらいだった。


 当然何ごとかとオベリスク含めしばし周囲見回すも、しかし辺りにはあの青年の姿はまるでなく――


 「! そこか!」


 それでもふいにその気配すぐ背後から感じ、キリクはもの凄い勢いでそちら振り返るや、再び恐るべき刃見舞ったのであった。


 「?!」


 だが、その時彼が目にしたものは、またも切られた瞬間さっとかき消えていく、幻めいた青年。攻撃受けても表情まったく変わらず、むろん悲鳴一つない。そして剣にも、まるで何かを斬ったという感覚が残らず……。


 と、そうして戸惑う間もなく、再び、今度は左手の方に同様の気配。

 もちろん捨て置くわけにはとてもいかず、すなわち彼は再度烈しく刃振るうものの――。


 「く……、またか!」


 そう、結局完全に同じ現象が、またもや繰り返し起きただけなのであった。


                  ◆


 「ど、どうなっているんだ……」


 そこでさすがに異常に気づき、キリクはただ茫然と立ち尽くす。

 そう、斬っても斬っても途端消えていく――それは太陽の真下だというのに、まるで奇妙な夢でも見ているような意味不明の状況だった。まさしく、実体のない蜃気楼相手にしていると言うべきか……。

 だが、当然だからといってこのまま(ぼう)、とばかりもしていられない。

 何より彼の戦士としての経験が、他でもないすぐ傍で危険がじっと潜んでいると、鋭く警告発していたのだから。


 (く、今はとにかく落ち着け……)


 とはいえ今の彼には惑乱もありどうにも打開する手段見つからず、結局取り乱さぬよう、自分にそう強く言い聞かせるのが関の山。むろんそれにも関わらず、いよいよ五里霧中の状態は強まって行くばかりで……。


 ――すると、その時。


 「何、これは別に難しいことじゃない」

 「!」


 突如として、背後よりあの青年の声が聞こえてきたのだった。


                  ◆   


 (後ろに、奴が……)


 相も変わらず涼やかで、そして憎らしいくらい落ち着いた声音。

 だがどこか凄惨なる迫力も潜めており、キリクはなぜかすぐ後ろ振り返ることもできず――。


 「いくら切れ味鋭い剣でも、幻だけは斬れない。僕の『幻影弾』を受けてしまった上は、ということさ」


 (く、――だが、まだだ!)


 それでもやらせるものか、と終わりの一刀とばかりに気を揮って、何とか手にした自慢の赤剣、即座に思いきり叩きこもうとしたものの。


 「――夢だけは、意のままにならないように」


 ……刹那の間だけ遅く、瞬間、そして最後に、白髪の剣士は惜別の辞のごとくその淡々とした声しかと肩越しに聞いていたのである。


 

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