67.光の塔 ④
鋼鉄の暴風のごとく、それは一気に宿敵エドアルトとの距離を縮めてきた。
間違いなく、どんな怪力の持ち主でもとてもその進撃止められぬ、凄まじい勢いだ。
何より眼前にあれよあれよと迫る、機体全体を覆う鎧にも似た真っ赤な外装部のその圧倒的威圧感。
エドアルトはともかくとして、その時周囲の荒くれ兵士たちが怯えた眼差し送るだけで何一つ手を出せなかったのも致し方ない。それくらい、轟音に包まれた爆走の迫力は目に余るものがあったのだから。
そして瞬きする間すらなく、それはいよいよ洒落男容易に捉えられる範囲内へと突入したかと思うと、しかしその途端ハンドル握る操縦士は中ほどまでぐっと腰浮かせた姿勢となり――。
「うおお!」
「と、飛んだ?!」
まさに5、6メティスほど手前で、エドアルト踏み砕こうとする、途轍もない大ジャンプ荒々しく見せたのだった。
「そりゃあ!」
そうして機上で勇壮な雄叫び上げつつ、クロニカは同時に鮮やかな操縦術で荒馬遥かに超える乱暴者と完全に一体化、人機はひとつとなって眼下のブレイカー目掛け突っこんでいく。
凄まじい速度に加え、同時に200ゾット(キログラム)は優に超える重量持つ巨躯による、容赦のない上からの一撃。
それゆえいかに類まれな念動力操る男でも、この衝撃まともに喰らったなら当然ひとたまりもあるまい。言うまでもなく生存確率すら相当低く、ましてや所詮、その黒く厳めしい籠手にできるのはちょっとした足止め程度に過ぎないはずだったのだから……。
あまりに力任せといえば、確かにそうとしか言いようのない攻撃。
だがかえってその単純に過ぎる作戦は異様なまでの威力持ってもおり、かくてエドアルトが迫り来る相手に一体どんな防御方法取るのかなど一切頓着することなく、黒髪の娘跨る暴走重装甲車はただひたすら騒音引き連れ落ち下っていくのだった。
「フッ……」
――ただしその刹那、クロニカは対するエドアルトがなぜか余裕ある笑みふと零したのを、かすかに認めたような気がしたのだが。
◆
そして、わずか一瞬の後。
「え?!」
その突如として起きた異変に、知らずクロニカも狼狽した声発さずにいられなかったのだった。
「そ、そんな、また?!」
そう、強烈な空中からの体当たり思いきりかまそうとした、まさにその寸前――あろうことか真っ赤な<ファイアー・ドレイク>の巨体がまるで何か見えない巨人の腕にでも掴まれたかのように、突然空に浮いたままガタッと前輪上げた体勢で停止してしまったのだ。
標的に達することなく、あまりにけたたましく、また虚しく空転続ける二つの黒い車輪見れば明らかなように……。
「く、こんなに力があるなんて!」
はたしてそんな状態はむろんクロニカの力ではどうあっても抜け出せず、彼女はハンドルすらピクリとも動かせなくなったままならぬ機体の上から、いかにも悔しげに下にいる男の顔見るくらいが今は関の山なのだった。
「思い知ったか、我が<魔動手>の力を?」
その洒落男がこちらに向けてかざした黒き掌の中、青の小魔法陣二つが怪しく輝き放つのを、その瞳にはっきりと焼き付けながら――。
「きゃあああ!」
そして次の瞬間、男がふいにその左腕を力強く振り払う動作示すや、クロニカの身体も<ファイアー・ドレイク>もろとも、後方へ激しく吹っ飛ばされていたのである。
◆
「く、何の!」
――だが、さすがは腕利きのブレイカー、まさしく軽業師のごとく彼女はただならぬ力受けながら空中で何とか姿勢制御に成功するや、横倒しになることなく、上手く車輪の方から石畳敷かれた地面へと着地している。衝撃も両輪ほぼ同時の理想的な接地で最低限に抑えこみ、むろんいまだすぐ戦闘体勢へ戻れるのは言わずもがな。当然戦意一切失われることなく、すかさず第二の攻撃へも移ろうとし……。
「え、何これ、全然動かない!」
だが、そこでまたしても前に立ちはだかってきたのは、エドアルトの<魔動手>が持つあの力なのだった。
青き輝きのさらに増した、掌の中の魔法陣――。
ブレイカーの精神力に呼応し、その隠された念動力存分に発揮させる、能力強化系オーバー・ブレイク。
その凄まじき力完全に開放すれば、いかなる巨体と重量誇る相手であっても、意のままに操れるという。
「クソ、まるで凍り付いたみたい?!」
そしてむろん、クロニカ跨る愛機、<ファイアー・ドレイク>でさえも。
◆
「――所詮こんなものだったか」
にたり、途端その見えざる力でがんじがらめとなった様を見て勝利の笑み零している、数メティス先に立つ黒服の男。
そうして彼はそれまで傍観者に過ぎなかった状態で立ち尽くしていた部下たちへ、死刑宣告のごとく、いかにも余裕感溢れる態で残酷なる指示を出したのだった。
「さあ、これでもう奴は一歩も動けん。そして早く、そのブレイカーを討ち取ってしまうのだ!」




