表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/86

64.光の塔 ①

 異様に太い丸太が勢いよく城門にぶち当たるや一帯へ轟いた音は、さながら嵐の夜を騒がす雷鳴のごとくだった。それは二度、三度とさらに容赦なく巨大な両開きの門へ続けて叩きこまれ、たまらずみしり、とさすがの巨大にして頑丈な構築物も悲鳴上げだしている。しかもなおのことそれ抱える力自慢の兵士たちは意気盛んで、これなら監獄へとつながる道もあっさり開通するかと思われたほど。

 それゆえそうはさせじとその時城壁上から相手方が矢を一斉に射かけてこなければ、城門突破作戦はますます勢い増していく一方のはずなのだった。


 「敵の攻撃だ、いったん下がれ!」


 すると辺りに響き渡ったのは、野太く勇壮な大音声。

 わざわざ凝視して確認するまでもなく、それはもちろん反乱軍率いるジグラト・シティの武器商人、ハウドのものである。

 青の上衣の上に鉄の胸鎧まとい、さらに頭には白いターバン巻いた頑健な体躯持つ男は、軍の真ん中に堂々と立ち、そして眼前で行われている攻城戦の模様冷静に眺めている。手にした見事な作りの曲刀ともあいまって、その強さと威厳あわせ持つ様はまさしく一流の軍指揮官の証といえよう。

 何よりその声の持つ力は自軍にとってまこと絶大で、とにかく早く仕事を果たそうといきり立っていた最前線の兵士たちも、それ耳にした途端すばやく一旦退却の動きに移っていた。


 「弓部隊、こちらも迎撃だ! たっぷりと矢の雨味わわせてやれ!」


 そうしてすかさず再度放たれたのは、報復の攻撃命じるげに厳しい声――。


                  ◇


 「これならもう間もなくですね、門を破るのも」


 かくて前衛隊を退がらせ安全十分に確保した後、つかの間の静かな時間が訪れると、赤茶色い巨大監獄の方をじっと見つめるハウドにそう声を掛けてくる男があった。

 理知的な目をした、口元の黒い髭目立つ男性――。

 自分と同じく胸鎧着けたそんな反乱軍の参謀格に、浅黒い肌した武器商人もむろん満足げに応じてみせる。


 「ああ、そして監獄内にさえ入ることできれば、後は勝利したも同然だ。向こうの兵力は多く見積もっても400程度だからな」

 「さらにいえば、こちらに救援部隊が派遣される可能性は今のところかなり少ないと言えましょう。所々で味方勢が敵軍相手に善戦しているゆえ」

 「確かに。……しかし予想外だったな、第一層の住民がこうまで反乱に参加してくれるとは」


 さらには、そう述べつつ口辺に不敵な笑みまで知らず零して。



 ……二人と、その彼らが率いる反乱軍主力2000名が現在陣取っているのは、第二層東地区のさらにまた東端部、長い道果てる突き当りの箇所。そこはまたかなりの広大さ誇る円形広場になっていて、幸いというべきか、大勢の人間を余裕持って収容できるという得がたい利点ある場所でもあった。すなわち、どんな突発的事態起こっても狭い地形よりはそれなりに皆対処可能で、かつ陣形なども組み易い。何より指導者より発される命令が滞りなく伝わることもあり、こうして蜂起からまだ序盤ながら、反乱軍は早くもかなり有利な状況に位置するとすらいえる。

 しかも彼らが話す通り、折よく第一層から味方が押し寄せて敵の動き抑えてくれているとすれば、がぜん、勝利への道も眩しく輝き出す――かくて大劇場放火から始まった反乱は、案に相違して、そう、指揮官たちも予想だにしていなかったほど、相当順調に進行し出していたのだった。



 「――マルカス、それで、ブレイカーたちの動向はどうだ?」


 と、そこでハウドが唐突に話を変えた。いや、むしろそれこそがこの戦いの勝敗決する最も大きな焦点だったのだろう。自然と、その声音も真剣な響き帯びている。

 ゆえに、対してマルカスと呼ばれた参謀が同じく真摯な表情で答えていたのも、状況を鑑みれば至極当然過ぎることなのであった。


 「はい、もちろん探りは入れています。そして集めた情報によれば、キリクとエドアルトはいまだそれぞれ自らの治める都市にいるとのこと。むろんその両都市からここジグラト・シティへ来るとなると、大急ぎで駆けつけても余裕で1日以上はかかります。すなわち、それまでに勝負を決することできれば……」

 「ウム、シティを奪い返すこと容易い。――そしてそうなると、後に立ちはだかるのはゴルディアス御大(おんだい)だけ、ということになるな」

 「もちろんそうですが――」


 そうして指揮官の言葉につと意味ありげな間を置くマルカス。はたしてその何かを言わんとする心の裡はすぐさま相手へも伝わったと見え、ハウドは納得したようにすぐ、大きくうなずいていたのである。


 「フ、そうだな。やはり、奴は当分まともに動けんか」

 「間違いなく。それくらい<箱舟>の使用はエネルギー消費激しいのですから」

 「これはまさに神のくれた好機。ついにあの僭主を倒せる日がやって来たぞ。……それに敵軍の威勢が妙にいまいちなのも、相当それが関係しているようだからな」

 「そう、自分たちを守るべきブレイカーは、今は何一つ頼りにならないのです」


 ピシャリ、そしてそう述べてマルカスはいかにも自信(みなぎ)る面(あら)わした。この計算高そうな男にしてはそれは不釣り合いなほどあからさまな感情の発露だったが、むろん彼をしてそうさせるくらい、戦況は自分たちにとって優勢そのものともいえる展開だったのであろう。


 しかも加えて彼には、自負に価する、功を奏した一つの良策があったとみえ、


 「何より、早めにゴルディアスが今は無力だと町中に宣伝しておいたのが、相当強力な効果発揮しましたな」


 ――言葉とともに、自然、髭の下の口には強気な笑みさえ浮かんでいたのであるから。


                  ◇


 「よし、ではこれより再び城門を攻撃し破壊、そして一気に監獄内へと突入する。皆、今こそ力を一つにして戦ってくれ!」


 こうして2000名の意志は一つにまとまり、優秀な指揮官のよく通る掛け声のもと、いよいよ監獄への突撃は始まろうとしていたのだった。


 監獄に囚われている100人を超す政治犯――そうした人々を解放すれば、俄然反乱軍の士気も上がる。何より、その中にはゴルディアスをもっとも恐れさせた気概ある元市参事会議員にして初代反乱組織リーダー、カルとメオナのクラスト夫妻、すなわちリンツ・リルカ兄妹の両親も含まれていたのだから……。



 「ム、何だ?」


 だが、その時だった。

 ハウドはふいに、どこか遠くの方で荒々しい声が響くのを耳にした。

 自らの背後、この監獄へと続くまっすぐな道の、その先の方だ。

 しかもそれは、明らかに兵士たちが気勢上げようとする(とき)の声にも思え――。


 どう考えても味方のものとも思われず、指揮官がつと怪訝な顔で後ろ振り返った、その刹那。


 「ハウド様、ご報告いたします!」


 民たちを掻き分け、一人の男が彼の元へ血相変えて急ぎ駆けつけてきたのだった。


 「ただ今、宮殿より増援がやって来た模様です!」


 そう、声音にただならぬ緊迫感漂わせて。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ